第18話「勇者、配信を始める」
地下づくりが——一段落した——ある日。
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誠が——店先で——野菜を——並べていると。
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厨二病の——若者たちの、中でも。
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一際——レベルの——高い——一人の、勇者が。
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妙な——ことを——始めていた。
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「——え〜、皆さん——こんにちは。本日も——始まりました」
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その、勇者は。
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虚空に——向かって。
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一人で——喋っていた。
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「本日は——この、異世界での——サバイバル生活を——皆さんに——お届け——します」
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「では——さっそく——まいりましょう」
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「……?」
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誠は——きょとん、と——した。
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勇者は——誰も——いない——空間に——向かって。
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にこやかに——喋り続けている。
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「あの……。勇者さん?」
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誠が——おそるおそる——声を——かけると。
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勇者は——ぴたり、と——止まって。
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「——しっ! 今——"配信中"、だ」
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「はいしん……?」
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「そうだ。俺の——冒険を——世界中に——届けているのだ」
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勇者は——胸を——張った。
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「俺の、いた——世界では——皆——こうして——自分の——活躍を——"配信"、していた」
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「多くの——視聴者に——見てもらい——応援を——もらう。それが——真の、主人公——たる——証よ」
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「はあ……。それで——今、何人——見てるんですか?」
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「うむ。ちょっと——待て。今——確認する」
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勇者は——虚空の——一点を——じっと——見つめた。
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そして。
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——固まった。
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「……あれ?」
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「どうか——しました?」
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「……し、視聴者、数」
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勇者の——顔が。
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みるみる——青ざめていく。
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「……ぜ、ゼロ、だ」
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「ゼロ?」
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「誰も……見て、いない……」
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勇者は——がっくりと——膝を——ついた。
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「そんな……。この、俺の——冒険を……誰も……一人も……」
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「あの……勇者さん、元気——出して……」
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誠は——おろおろ、と——した。
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「そもそも——この、世界には——"配信"、っていう——仕組み、ないんじゃ——ないですか?」
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「……え?」
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「だから——見たくても——見られないというか……。この、世界の——人は——そういうの——できないので……」
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勇者は——愕然と——した。
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「そ、そんな……。では——俺は——ずっと……誰にも——見られずに……一人で……喋って——いた、のか……?」
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「……まあ、はい。そういう——ことに——なりますね」
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勇者は。
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——がーん。
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と——effを——受けたように——固まった。
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「あー……その」
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誠は——見ていられなく——なって。
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つい——言ってしまった。
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「……僕で——よければ——見ましょうか? その、配信」
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「——本当か!?」
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勇者は——ぱっ、と——顔を——上げた。
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「い、いいのか——! では——視聴者——一名——獲得——だ——!」
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「はあ……。まあ——店番——しながらで——よければ」
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こうして。
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誠は——世界で——たった一人の。
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その、勇者の——"視聴者"、に——なった。
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「——え〜、皆……いや、視聴者の——田中さん。本日は——薪割りを——お見せ——します」
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「はいはい。頑張ってください」
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「見てますか——! ちゃんと——見てますか——!」
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「見てますよー」
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——なんだか。
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やたらと——張り切って——薪を——割る——勇者。
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そして——それを。
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野菜を——並べながら——生ぬるく——見守る——誠。
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(——なんだか……前にも——こんなこと——あったな)
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誠は——ふと——思い出した。
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そう——いえば——アルフレートも——昔。
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「配信」だの——「視聴者」だのと。
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似たようなことを——言っていた——気がする。
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「アルフレート様。あの、勇者さんも——"配信"、とか——言ってますけど……」
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「アルフレート様も——昔——そんなこと——言ってましたよね?」
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すると——アルフレートは。
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——ごほん、と——咳払いを——して。
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やけに——重々しく——頷いた。
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「……うむ。あの、気持ち……よく——分かる」
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「え?」
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「見て——もらえる、というのは……嬉しい、ものだ」
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「たとえ——一人でも……いや。一人だからこそ……その、一人が——ありがたい」
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アルフレートは。
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しみじみ、と——遠い——目を——した。
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「田中。お前は——気づいて——いないかも——しれんが……」
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「お前は——いつも——皆を——"見て"、いる」
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「困っている——者を——見つけ。声を——かけ。手を——差し伸べる」
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「あの、勇者が——欲しいのは——きっと……そういう——"見て、もらえる"、安心——なのだ」
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「……そういう——ものですかね」
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誠には——よく——分からなかったが。
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とりあえず。
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「勇者さーん! 薪割り——上手ですねー!」
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と——声を——かけてやった。
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すると——勇者は。
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——ぱあっ。
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と——それは——嬉しそうに——笑ったのだった。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「レベルの、高い、勇者さんが、"配信"、っていうのを、始めた。虚空に、向かって、一人で、喋ってる。自分の、冒険を、世界中に、届けてるんだって。でも、視聴者数、確認したら……ゼロ。誰も、見てなかった。しょんぼり、しちゃって、可哀想で、つい、"僕が、見ます"、って言った。世界で、一人だけの、視聴者。薪割りを、やたら、張り切って、見せてくれた。……そういえば、アルフレート様も、昔、"配信"、とか、言ってたな。アルフレート様、"見てもらえるのは、嬉しい。一人でも、いや、一人だからこそ、ありがたい"、って、しみじみ。それから、"お前は、いつも、皆を、見てる"、って。よく、分からないけど、勇者さんが、嬉しそうで、よかった。じいちゃん、変な人ばっかり、集まってくるよ」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。この、勇者が——欲しがった——「見て、もらいたい」、という——気持ちの——奥に。
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——誰にも——見て——もらえなかった、深い——孤独が——隠れていたことを。
そして——誠が——何気なく——皆を——"見て"、いること、こそが……たくさんの——寂しい——英雄たちの——心を——救っていたことも——今は……まだ、知らない。




