第14話「五人目の、主人公」
賢者が——来て。
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数日、後。
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その日は——朝から——妙に——静か、だった。
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空も——裂けない。
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新しい——転移者も——来ない。
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「珍しく——平和だなあ」
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誠が——のんびり——野菜を——並べていると。
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——ふわり。
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風もないのに。
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店先の——木の葉が——舞い上がった。
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「……?」
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気づけば。
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店先に——一人の、男が——立っていた。
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いつの間に。
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空も——裂けなかった。
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物音も——しなかった。
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なのに——その、男は。
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まるで——最初から——そこに——いたかのように。
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静かに——佇んでいた。
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「うわっ! び、びっくりした……! いつの間に——!?」
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男は——何も——言わず。
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ただ——静かに——誠を——見た。
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深い——色の——瞳。
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年の頃は——読めない。
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若いようにも——見えるし。
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ずっと——長く——生きてきたようにも——見える。
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まとう——空気が。
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他の——者たちとは——まるで——違った。
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「あの……。あなたは?」
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誠が——尋ねると。
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男は——ようやく——口を——開いた。
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「……英雄と、呼ばれている」
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低く。
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静かな——声、だった。
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「英雄……さん」
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「名は——とうに——捨てた。ただ——英雄と、だけ」
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多くを——語らない。
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けれど——その、佇まいには。
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確かな——"何か"、が——あった。
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「あなたも——別の、世界から——来たんですか?」
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「そうだ」
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「じゃあ……主人公、ですか?」
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英雄は。
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少しの、間——沈黙して。
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そして——静かに——言った。
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「主人公とは——語る、ものではない」
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「にじみ、出る——ものだ」
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「……はあ」
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誠には——よく——分からなかった。
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けれど——なんとなく。
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この、人も——「自分が、主人公だ」と——思っている——ことだけは。
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伝わってきた。
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「——ほう」
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そこへ。
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店の、奥から——光の勇者たちが——顔を——出した。
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「また——主人公——気取りが——現れたか」
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「フフ。ずいぶんと——気取った——男ですねえ」
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「ふん。強そうな——奴だ。だが——主人公は——俺だ」
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英雄は。
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彼らを——一瞥して。
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そして——ふっと——微笑んだ。
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「——騒がしい、ものだな」
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「なんだと?」
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「本物の——主人公は——己を——騒がしく——主張——しない」
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「ただ——そこに——在るだけで——物語は——動く」
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「「「——は?」」」
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光の勇者、武闘家、魔術師が。
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同時に——気色ばんだ。
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「気取るのも——大概に——しろ——!」
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「主人公は——俺だと——言っている——だろう——!」
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「フフ——身の程を——知りなさい——!」
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——バチバチバチ。
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四人の、間に。
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すさまじい——火花が——散った。
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そこへ——賢者まで——加わって。
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「やれやれ。知性の、ない——争いだ。真に——世界を——導けるのは——知恵——のみ。すなわち——僕だ」
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「「「「——お前もか——!」」」」
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——五人。
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自称・主人公が。
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ついに——五人に——なった。
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そして——五人は。
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一斉に——睨み合い。
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声を——揃えて——叫んだ。
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「「「「「——主人公は、俺(私)だ——!!!」」」」」
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その、真ん中で。
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誠は——ぽつん、と——立ち尽くして。
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「……あの」
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おずおずと——口を——挟んだ。
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「通路——ふさいでるんで……ちょっと——どいて——もらって——いいですか。お客さん——来ちゃうんで」
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——五人が。
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同時に——「すまない」、と——一歩——下がった。
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そして——また——睨み合った。
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「……はあ」
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誠は——大きな——ため息を——ついた。
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(——これから——どうなるんだ、この、店……)
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「五人目の、主人公が、来た。英雄さん。空も、裂けないで、いつの間にか、店先に、立ってた。びっくり。無口で、静かで、でも、なんか、独特の、雰囲気の、ある人。"主人公は、語るものじゃ、ない、にじみ出るものだ"、って。かっこいい、こと言うけど、要は、自分が、主人公だと、思ってる、ってことだよね。これで、光の勇者さん、武闘家さん、魔術師さん、賢者さん、英雄さんの、五人。全員、"主人公は、俺だ"、って、大喧嘩。通路、ふさいでたから、どいて、って言ったら、みんな、素直に、どいてくれた。……悪い人たちじゃ、ないんだよね、たぶん。ただ、やかましいだけで。じいちゃん、うちの店、五人の、主人公の、たまり場に、なっちゃったよ。どうしよう」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。この、五人の——"主人公"、たちが。やがて——手を——組んだり、いがみ合ったりしながら——盛大な——騒動を——巻き起こすことを。
そして——五人が——どれほど——「主人公は、俺だ」と——叫んでも……本当の——主人公は——その、輪の——真ん中で。ただ——ため息を——ついている——その、人で——あることも——今は……まだ、誰も——気づかない。




