第13話「どこかで、会った」
その日も——空が——裂けた。
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もう——誠も——すっかり——慣れてしまって。
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「あ、また——落ちてきた」
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と——空を——見上げる、だけ、だった。
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——どすん。
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今度、落ちてきたのは。
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一人の——青年、だった。
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すらりと——した——長身。
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手には——古びた——一冊の——本。
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知的な——面立ちの——男、だった。
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「……ここは」
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青年は——ゆっくりと——身を——起こして。
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あたりを——静かに——見回した。
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「なるほど。異なる——世界、か。興味深い」
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彼は——取り乱す、でも——なく。
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冷静に——状況を——観察していた。
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「大丈夫——ですか?」
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誠は——駆け寄って——手を——差し伸べた。
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「急に——落ちてきて——びっくり——しましたよね。怪我は——ないですか?」
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「ああ……。すまない。助かる」
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青年は——誠の——手を——取って——立ち上がった。
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その、瞬間。
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誠は——ふと——奇妙な——感覚に——襲われた。
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——あれ。
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この、人。
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どこかで——会った——ような。
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「……?」
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誠は——青年の——顔を——じっと——見つめた。
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見覚えは——ない。
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こんな——知的な——青年、知り合いに——いただろうか。
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いない——はずだ。
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——なのに。
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なぜか。
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胸の——奥が。
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きゅっ、と——なる。
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「あの……。どうか——したか?」
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青年が——訝しげに——尋ねた。
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「僕の——顔に——何か——ついているか?」
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「あ——いえ! すみません!」
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誠は——慌てて——首を——振った。
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「なんだか……どこかで——お会いした、ような——気が——して。……気の、せい——ですよね。すみません」
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「どこかで——会った?」
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青年も——誠の——顔を——見つめ返した。
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しばらく——じっと。
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何か——思い出そうと——するように。
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「……いや」
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やがて——青年は——首を——振った。
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「すまないが——記憶に——ない。僕は——別の——世界から——来たばかりだ。君と——会ったことは——ないはずだ」
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「……ですよね。すみません、変な——ことを——言って」
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誠は——照れ笑いを——した。
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きっと——気の、せいだ。
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こんなに——たくさんの——人が——来るから。
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誰かと——誰かが——似て——見えただけ、だろう。
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——なのに。
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なぜだろう。
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この、胸の——奥の。
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懐かしいような。
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切ないような。
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この——感じは。
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「——おや」
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その時。
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店の、隅で——煙管を——ふかしていた——一人の、男が。
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ふと——顔を——上げた。
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三笑亭駄々丸。
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前作からの——付き合いの——落語家、だった。
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近頃は——この、店に——入り浸って。
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賑やかな——騒動を——肴に——一杯——やるのが。
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彼の——楽しみ、らしい。
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その、駄々丸が。
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落ちてきた——青年を——見て。
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——すっ、と——目を——細めた。
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「……ふむ」
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駄々丸は——煙管を——くわえたまま。
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じっと——青年を——観察した。
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(——はてな。妙な——お人だ)
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駄々丸の——目が。
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かつて——忍びだった、頃の——鋭さを——帯びる。
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(——別の、世界から——来た、と——言うが……)
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(——なんだか——この、"匂い"……)
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(——どこかで——嗅いだ、ことが——あるような)
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駄々丸は——しばらく——考えて。
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そして——ふっと——笑った。
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(——ま。いいさ。今は——黙って——おこう)
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(——面白く——なりそう、だ)
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駄々丸は——何も——言わず。
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また——煙管を——ふかし始めた。
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「あの、青年——さん」
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誠が——気を——取り直して——尋ねた。
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「あなたも——もしかして……主人公、ですか?」
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「主人公?」
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青年は——少し——考えて。
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そして——静かに——微笑んだ。
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「……そうだな。僕は——賢者だ」
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「知恵で——世界を——導く——者。まあ——主人公と——言っても——いいだろう」
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「あ、やっぱり……」
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誠は——遠い——目を——した。
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——四人目。
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また——主人公が——増えた。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「今日も、一人、落ちてきた。賢者さん。知的で、冷静な、青年。四人目の、主人公だ。……でも、なんか、変なんだ。賢者さんの、手を、取った、瞬間、"どこかで、会った"、気が、して。でも、見覚えは、ない。会ったことも、ないはず。なのに、胸の奥が、きゅっと、なった。懐かしいような、切ないような……変なの。賢者さんに、聞いても、"記憶にない"、って。気のせい、だよね。人が、たくさん、来るから、誰かと、似てるだけ、かな。……そういえば、駄々丸さんが、賢者さんを、じっと、見てた。何か、気づいたのかな? まあ、駄々丸さん、いつも、何か、企んでそうだからな。じいちゃん、なんだか、不思議な、一日だった」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。この、賢者に——感じた——「どこかで、会った」、という——奇妙な——懐かしさの——正体を。
そして——それに——最初に——気づいたのが……何も——言わずに——煙管を——ふかしていた——あの、駄々丸で——あったことも——今は……まだ、知らない。




