第12話「賑やかな、八百屋」
自称・主人公が——三人に——増えて。
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八百屋・田中青果店は。
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すっかり——賑やかに——なった。
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「おい、モブ! 茶——おかわり!」
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「フフ、私には——上等な——葡萄酒を」
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「そんなもの——ない! 水で——我慢しろ!」
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朝から——晩まで。
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やかましい、こと——この上ない。
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「もう——! 皆さん——静かに——してください——!」
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そんな、中。
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一番——奮闘していたのは。
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弟子の——ルカ、だった。
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「師匠が——忙しいんですから——! 自分の、ことは——自分で——やってください——!」
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十二、三の——少年が。
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大の——大人——三人を——相手に。
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ぷんぷんと——怒っている。
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「なんだ、この——小僧は」
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武闘家が——面白がって——ルカを——見た。
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「ほう。いい——目つきだ。鍛えれば——強くなるぞ」
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「強くなんて——なりません——! 僕は——八百屋に——なるんです——!」
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ルカは——胸を——張って——言い切った。
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「師匠みたいな——立派な——八百屋に——なるのが——僕の——夢——なんです——!」
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その、言葉に。
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三人の——自称・主人公は。
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一瞬——きょとん、と——した。
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「……八百屋に——なるのが——夢?」
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光の勇者が——首を——かしげた。
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「勇者や——英雄では——なく?」
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「はい——! 八百屋です——!」
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ルカは——きっぱりと——頷いた。
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「師匠は——すごいんですよ——! 戦えないけど——困ってる、人が——いたら——絶対に——放っておかない——!」
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「みんなを——繋いで——助け合いを——作って——! 星喰いだって——師匠が——いたから——倒せたんです——!」
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「ルカ、ルカ。そこまで——だ」
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誠は——照れて——ルカを——止めた。
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「大げさだよ。僕は——ただ——できることを——しただけ、だ」
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「大げさじゃ——ないです——!」
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ルカは——なおも——言い募った。
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「師匠は——本当に——すごいんです——! だから——僕は——師匠みたいに——なりたいんです——!」
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——星喰いを——倒した。
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その、言葉に。
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三人の——自称・主人公は。
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一瞬——顔を——見合わせた。
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「……おい、モブ」
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光の勇者が——訝しげに——尋ねた。
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「星喰い、とは——何だ。この、小僧は——お前が——倒したと——言っているが」
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「ああ……」
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誠は——頭を——掻いた。
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「昔——この、世界に——星喰いっていう——大きな——脅威が——来たんです。星を——丸ごと——焼いてしまう——ような」
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「それを——みんなで——力を——合わせて——なんとか——倒した、っていうか……」
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「星を——焼く——脅威、だと?」
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三人が——ぎょっと、した。
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「そんな——ものを——倒したのか? お前たちが?」
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「まあ——はい。運が——よかったんです」
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誠は——あっさりと——言った。
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けれど——三人は。
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にわかには——信じられない、という——顔を——していた。
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「……ふん。まあ——いい」
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光の勇者が——話を——切り上げた。
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「昔の、ことは——どうでも——いい。今は——魔王だ」
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だが——その、目には。
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ほんの——少しだけ。
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誠を——見る——目が。
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変わったような。
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そんな——気が——した。
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(——まあ。信じて——もらえなくても——いいけどね)
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誠は——気にせず——店の、仕事に——戻った。
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その、日の——夜。
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ルカが——こっそり——誠に——耳打ちした。
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「師匠……。あの、人たち……本当に——主人公——なんですか?」
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「さあ……。どうだろうな」
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「だって——師匠の、方が——ずっと——すごいのに」
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ルカは——不満そうに——頬を——膨らませた。
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「なんで——師匠は——"モブ"、なんですか。師匠こそ——主人公——なのに」
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「はは」
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誠は——笑った。
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「僕は——モブで——いいんだよ、ルカ」
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「主人公なんて——柄じゃ——ない。僕は——ただの——八百屋だ」
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「地味に——野菜を——売って。困ってる——人が——いたら——手を——貸す」
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「それで——十分、幸せ、なんだ」
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ルカは——まだ——納得——いかない——様子、だったが。
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「……師匠が——そう——言うなら」
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と——渋々——頷いた。
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(——僕が——主人公、か)
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誠は——ルカの——言葉を——思い返して。
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そして——ふっと——笑った。
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(——まさか、ね)
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そんな——ことは——あるはずが——ない。
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自分は——ただの——モブ、なのだから。
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——そう。
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誠は——疑いもせず。
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そう——思っていた。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「うち、すっかり、賑やかに、なった。主人公さん、三人、やかましい。ルカが、怒ってくれてる。ルカ、"八百屋に、なるのが、夢"、って、主人公さんたちに、言い切ってた。えらいなあ。それから、"師匠こそ、主人公なのに、なんで、モブなんですか"、って。僕は、モブで、いいんだよ、って言った。ただの、八百屋で、十分、幸せだもん。主人公なんて、柄じゃ、ない。……でも、ルカが、真剣に、言うから、ちょっとだけ、おかしかった。僕が、主人公。まさか、ね。じいちゃん、ルカ、いい子に、育ってるよ。ちょっと、生意気だけど」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。ルカが——無邪気に——口にした——「師匠こそ、主人公」、という、言葉が。
そして——誠自身が——笑って——打ち消した——「まさか、ね」、という、その——たった一言が。
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——いつか。
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世界の——誰もが——認める……まぎれもない——真実に——変わることも——今は……まだ、知らない。




