第8話「主人公を名乗る男」
光の勇者は。
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そのまま——町に——居座った。
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「魔王が——見つかるまでの——仮の——拠点だ」
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などと——偉そうに——言って。
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なぜか——誠の、店の——軒先を——定位置に——した。
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「おい、モブ。茶を——くれ」
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「はい、はい」
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「おい、モブ。この、辺りに——強い、魔物は——いないのか」
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「さあ……。せいぜい——畑を——荒らす——イノシシ、くらいですかね」
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「イノシシ……。主人公の——相手には——ならんな」
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勇者は——誠の、ことを。
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頑なに——「モブ」、と——呼んだ。
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名前を——教えても。
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「モブに——名前など——不要だ」、と——取り合わない。
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「まったく——失礼な——奴だ」
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アルフレートが——ぷりぷりと——怒った。
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「田中を——モブ、モブ、と……。田中は——この、世界を——救った——恩人だぞ」
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「まあまあ、アルフレート様」
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誠は——笑って——なだめた。
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「別に——モブで——いいですよ。実際——モブ、ですし」
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「しかし——!」
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「それより——あの人、放っておいたら——飲まず食わずで——魔王探しに——行きそうなんで。見てないと——心配で」
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アルフレートは——呆れた——顔を——した。
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「お前は——本当に——お人好しだな、田中」
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「そう——ですかね」
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事実——光の勇者は。
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見た目こそ——立派——だったが。
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生活能力は——まるで——なかった。
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「勇者さん、そんな、ところで——寝たら——風邪——ひきますよ」
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「勇者さん、その——木の実は——毒——ですよ」
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「勇者さん、お金——持ってないなら——先に——言ってください……」
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放って——おけない。
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なんだかんだ、と——誠は。
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この、傍若無人な——勇者の——世話を——焼いていた。
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「——なあ、モブ」
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ある、夜。
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握り飯を——頬張りながら。
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勇者が——ぽつり、と——言った。
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「お前は——なぜ——俺に——親切に——する?」
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「え?」
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「俺は——お前を——モブ、と——呼んで——見下している。なのに——お前は——俺に——飯を——食わせ——世話を——焼く」
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「意味が——分からん。俺が——お前なら——とっくに——追い出している」
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誠は——少し——考えて。
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そして——当たり前の、ように——答えた。
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「だって——困ってる——じゃ——ないですか」
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「……困って?」
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「はい。お腹——空かせて。お金も——なくて。行く、あても——なくて」
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誠は——微笑んだ。
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「困ってる——人が——目の前に——いたら……放って——おけないでしょう。それだけ——ですよ」
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勇者は——握り飯を——持つ、手を——止めて。
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じっと——誠を——見つめた。
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「……変な、奴だ」
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「よく——言われます」
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勇者は——ふん、と——鼻を——鳴らして。
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そして——また——握り飯を——頬張った。
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もぐもぐと——食べながら。
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ぽつり、と——付け加える。
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「……まあ。悪く、ない——味だ」
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「握り飯が——ですか?」
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「……ああ」
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その、横顔が。
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ほんの——一瞬。
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どこか——寂しげに——見えた。
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(——この人。偉そうに——してるけど)
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誠は——ふと——思った。
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(——本当は——寂しいのかも——しれないな)
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別の——世界から——たった一人で——やってきて。
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知り合いも——いない——見知らぬ——世界で。
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「主人公だ」と——虚勢を——張って。
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——なんだか。
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放って——おけないな、と。
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誠は——思った。
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「勇者さん。もし——行く、あてが——ないなら」
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誠は——言った。
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「しばらく——うちに——いても——いいですよ。狭い——ですけど」
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勇者は——ぎょっと——した——顔で——誠を——見た。
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「……なぜ——そこまで——する」
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「なんとなく——です」
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「……お前は——本当に——お人好しの——大馬鹿——者だな」
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「はは。よく——言われます」
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勇者は——しばらく——黙って。
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そして——ぼそり、と——言った。
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「……世話に——なる。少しの——間——だけ、だがな」
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こうして。
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光の勇者は。
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魔王を——探す、と——言いながら。
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なんだかんだ、と——誠の、店に——居着くことに——なった。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「勇者さん、うちの、軒先に、居座ってる。僕のこと、ずっと、"モブ"、って呼ぶ。名前、教えても、"モブに、名前は、不要"、って。でも、お金も、ないし、生活能力も、ゼロで、放っておけない。アルフレート様には、"お人好しの、大馬鹿者"、って、呆れられた。勇者さん、"なぜ、見下してる、俺に、親切にする"、って、聞いてきた。"困ってるから、放っておけない"、って答えたら、"変な奴だ"、って。でも、握り飯、"悪くない味だ"、って。……あの人、偉そうにしてるけど、本当は、寂しいのかも。別の世界から、一人で、来たんだもんな。だから、"しばらく、うちにいていい"、って言った。少しの間だけ、って言いながら、結局、居着きそう。じいちゃん、なんだか、賑やかに、なってきたよ」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。この、勇者が——"主人公だ"、と——虚勢を——張る、その——裏に。どんな——深い——喪失が——隠されていたのかを。
そして——誠の——この、"放っておけない"、という——ただ——それだけの、心が……やがて——たくさんの——傷ついた——英雄たちを——救う、ことに——なるのも——今は……まだ、知らない。




