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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
沈む世界、再びの日常

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第7話「最初の来訪者」

「光の——勇者……?」




誠は——おうむ返しに——呟いた。





自称・光の勇者は。




ふっ、と——髪を——かき上げて。





「そうだ。俺は——選ばれし——者。世界を——救う——運命を——背負った——男」




「すなわち——主人公——だ」






「はあ……」





誠は——気の抜けた——返事を——した。





なんと——反応、していいのか——分からない。






勇者は——そんな——誠を。




じろり、と——見た。





上から——下まで。




品定めするように——眺めて。





そして——ふん、と——鼻を——鳴らした。






「なんだ——お前は。ずいぶんと——冴えない——男だな」




「え」




「その——薄汚れた——前掛け。手には——泥。顔には——覇気が——ない」





勇者は——断言した。





「——モブ、だな。お前」






「モブ……」





誠は——苦笑した。





「まあ……そう、ですね。ただの——八百屋——ですから」





「だろうな」




勇者は——満足げに——頷いた。





「まあ、いい。モブには——モブの——役割が——ある」




「主人公たる——俺を——支えるのが——お前たちの——務めだ。せいぜい——励め」






——なんて、奴だ。





そばで——聞いていた——アルフレートが。




むっと——した——顔で——一歩、前に——出た。





「おい、貴様。田中を——愚弄するか」





「アルフレート様、いいですよ。落ち着いて」




誠は——アルフレートを——手で——制した。






「ん?」




勇者が——アルフレートに——目を——向けた。





「そういう——お前は——何だ。……ほう。それなりに——鍛えた——体つき——だが」





勇者は——じっと——アルフレートを——見つめて。





そして——不思議そうに——首を——かしげた。





「……妙だな。お前の——"レベル"、が——やけに——低い」






「……む」




アルフレートが——ぐっと——言葉に——詰まった。





「レベル、1……いや、今は——5、か。その、なりで——その、レベル?」




「不釣り合いだな。まるで——かつては——強かったのに——力を——失った——みたいだ」






図星、だった。





アルフレートは——ぐぬぬ、と——唸った。





「……余計な——お世話だ」






(——この人にも——レベルが——見えるのか)





誠は——そのやりとりを——見ながら——思った。





アルフレートと——同じ。




この、勇者にも——相手の——レベルが——見えるらしい。





そういえば——と——誠は——気づく。






(——この人、僕の——ことは——"モブ"、って——言ったけど)




(——僕の——レベルは——何も——言わなかったな)






見えなかったのか。




それとも——見る——価値も——ないと——思ったのか。





まあ——どちらでも——いいか。





誠は——それ以上——気に——しなかった。






「あの——勇者さん」




誠は——気を——取り直して——尋ねた。





「あなたは——どこから——来たんですか? さっきの——空の——裂け目から——落ちてきましたよね」





「うむ。よくぞ——聞いた」





勇者は——待ってました、とばかりに——語り始めた。






「俺は——別の——世界から——来た。神の——お告げが——あったのだ」




「"危機に——瀕した——世界が——お前を——待っている"、と」





「そして——気づけば——あの、光の——中に、いて……この、世界に——導かれた——というわけだ」






「別の——世界、から……」





誠は——考え込んだ。





異世界からの——来訪者。





かつて——四百年前に——この、世界に——流れ着いた——あの、漂着者を——思い出す。





(——また——別の、世界から——誰かが——来た……?)






「それで——勇者さんは——これから——どうするんですか?」





「決まっている」




勇者は——剣を——抜き放った。





「この、世界には——"魔王"、が——いるはずだ。どんな、世界にも——魔王は——いる」





「その、魔王を——倒し——世界を——救う。それが——主人公たる——俺の——使命——だ!」






「魔王……」





誠は——首を——かしげた。





「そんなの——いましたっけ? この、世界に」





「ルカ、知ってるか?」




「うーん……。僕は——聞いた、こと——ないです」






「何を——言っている」




勇者は——自信満々に——言い切った。





「魔王の——いない——世界など——ない。必ず——どこかに——潜んでいる」




「そして——それを——倒すのが——主人公。すなわち——俺だ」






(——そういう、ものなのかなあ)





誠は——半信半疑、だった。





そもそも——この、世界の——脅威は。




魔王、なんかより。





この——異常な——暑さや。




溶けていく——氷や。




沈んでいく——島の——方が。





よほど——深刻——なのでは、ないか。






「あの、勇者さん。魔王も——いいですけど……」




誠は——おずおずと——切り出した。




「今、この、世界は——ものすごく——暑くて。氷が——溶けて、島が——沈んで……困ってる——人が——たくさん——いるんです」




「そっちを——なんとか——できませんか?」






すると——勇者は。




きょとん、と——した——顔を——した。





「暑い? 氷?」




「はい」





「……はっ。何を——言うかと——思えば」




勇者は——鼻で——笑った。





「そんなものは——"天気"、だろう。主人公が——相手に——するのは——魔王だ」




「天気なんぞ——相手に——してられるか」






「はあ……。そう、ですか」





誠は——がっくりと——肩を——落とした。






(——話が——通じないなあ)






「まあ——いい。ともかく——俺は——魔王を——探す」




勇者は——剣を——収めた。





「だが——その、前に——だ」




「はい?」





勇者は——急に——ばつが——悪そうに——目を——そらして。





そして——小さな——声で——言った。





「……腹が——減った。何か——食わせろ」






誠は——思わず——吹き出した。





「ふふ。……はい、はい。分かりました」




「今、握り飯でも——作りますね。座って、待っててください」






なんだかんだ、と——言っても。




腹は——減る。





主人公だろうが——モブだろうが。




そこは——同じ、らしい。






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「落ちてきた、勇者さん、"光の勇者"、って名乗った。僕を、見るなり、"モブだな"、って。まあ、八百屋だし、その通りなんだけど。アルフレート様が、怒ってくれた。勇者さん、アルフレート様の、レベルが、低いのを、不思議がってた。やっぱり、この人にも、レベルが、見えるんだ。……そういえば、僕のレベルは、何も、言わなかったな。見えなかったのかな。まあ、いいか。勇者さん、"魔王を、倒して、世界を、救う"、って。でも、この世界に、魔王なんて、いたっけ? 暑さとか、氷とか、島とか、そっちを、何とかして、って言ったら、"天気なんて、相手に、してられるか"、って。話、通じないなあ。でも、最後は、"腹、減った"、って。結局、握り飯、三つ、食べてった。主人公も、モブも、腹は、減るんだなあ」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。



まだこの時の誠は知らない。この、勇者が——探し求める——"魔王"、が。そして——誠が——気にしている——"暑さ"、が。どちらが——本当の——脅威で、あるのかを。


そして——勇者が——鼻で——笑った、その——"天気"、こそが……やがて——すべての——英雄を——打ちのめす……本物の——絶望に——変わることも——今は……まだ、誰も——知らない。

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