第4話「沈んだ島の噂」
その、噂が——町に——流れ始めたのは。
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夏の——盛りを——過ぎた、頃、だった。
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「——なあ、聞いたか。南の、島が——沈んだ、ってよ」
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店先で——麦茶を——飲みながら。
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行商人の——男が——そう——切り出した。
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「島が——沈んだ?」
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誠は——手を——止めた。
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「ああ。俺も——人づてに——聞いた、話だがな」
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行商人は——声を——潜めた。
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「南の、海に——小さな、島が——いくつか——あったろう。あれが——ここ、最近……海に——飲まれちまった、らしい」
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「そんな……。島が——丸ごと?」
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「ああ。なんでも——海の、水位が——じわじわ——上がってる、とか」
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誠は——ふと——先日の——話を——思い出した。
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北の——氷が——溶けている。
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(——氷が、溶けて……海の、水が——増えて……)
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(——それで、島が——沈む……?)
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頭の、中で。
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なにか——点と、点が——繋がりかけた。
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「——まあ、遠い——南の、話だ」
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行商人は——気楽に——笑った。
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「ここらは——内陸だ。海なんて——縁が、ない。関係——ないさ」
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「……そう、ですね」
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誠も——つられて——頷いた。
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確かに——この、町は——海から——遠い。
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島が——沈もうが。
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海が——増えようが。
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直接——困る、ことは——ないだろう。
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——でも。
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誠の、胸に。
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ほんの——小さな——引っかかりが——残った。
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北の——氷が——溶けて。
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南の——島が——沈む。
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そして——この、異常な——暑さ。
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それらが——バラバラの——出来事、ではなく。
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どこかで——一つに——繋がっている——ような。
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そんな——気が——した。
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「気の——せい、かな」
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誠は——小さく——呟いた。
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その、夜。
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夕飯の——後。
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誠は——アルフレートに——その、話を——してみた。
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「——島が、沈んだ、か」
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アルフレートは——箸を——止めて——考え込んだ。
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「アルフレート様は——どう——思います?」
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「うーむ……」
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アルフレートは——腕を——組んだ。
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「正直——分からん。だが……」
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「だが?」
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「なんとなく——嫌な——予感が——する」
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アルフレートは——窓の、外の——夜空を——見上げた。
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「星喰いとの——戦いの——前も……こんな——感じ、だった」
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「小さな——異変が——一つ、また一つと——重なって……」
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「気づいた、時には——手遅れに——なっていた」
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誠は——ぞくり、と——した。
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「……まさか。また——何か——起きる、って——ことですか?」
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「分からん。……分からんが」
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アルフレートは——静かに——言った。
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「用心は——しておいた、方が——いいかも——しれん」
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その、言葉に。
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誠は——しばらく——黙り込んだ。
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けれど——やがて。
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誠は——ふっと——肩の、力を——抜いた。
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「……いや。考えすぎ、ですよ、きっと」
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「そうか?」
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「ええ。だって——僕たちは——もう——星喰いを——倒したじゃ——ないですか」
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誠は——微笑んだ。
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「あんなに——大きな——脅威を——乗り越えたんです。もう——あんなことは——起きませんよ」
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「……そうだと——いいがな」
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アルフレートは——まだ——どこか——腑に、落ちない——様子、だったが。
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それ、以上は——何も——言わなかった。
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(——大丈夫だ)
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誠は——自分に——言い聞かせた。
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(——世界は——平和に——なった。僕らが——守ったんだ)
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(——だから——もう——大丈夫)
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その、夜。
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誠は——なかなか——寝付けなかった。
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窓の、外。
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夜空には——一つの、月が——浮かんでいる。
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かつては——二つ——あった、月。
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星喰いとの——戦いの、後。
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神様が——旅立って——一つに——戻った、月。
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その、月を——見ていると。
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なぜか——少しだけ——心が——落ち着いた。
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「……おやすみなさい、神様」
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誠は——月に——向かって——小さく——呟いて。
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そして——目を——閉じた。
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——その、頃。
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遠い——遠い——空の——彼方で。
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麻雀牌を——並べていた——誰かが。
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ふと——手を——止めて。
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この、星の、方を——見た——ような。
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——気が、した。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「南の、島が、沈んだ、って、噂を、聞いた。海の、水位が、上がってるらしい。北の、氷が、溶けて……南の、島が、沈む……この、暑さ……なんだか、全部、繋がってる気が、して、ちょっと、怖くなった。アルフレート様に、話したら、"嫌な予感がする。星喰いの、前も、こんな感じだった"、って。でも、僕は、言った。"もう、星喰いを、倒したんだから、大丈夫"、って。……本当に、大丈夫、だよね? じいちゃん。なんだか、今夜は、月が、やけに、綺麗に、見える。神様、元気に、してるかな」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。北の、氷と——南の、島と——この、暑さが——確かに——一つに——繋がっていた、ことを。
そして——その、繋がりの——根っこが……ほかでもない——かつて——自分たちが——掴んだ、あの——"勝利"、に——あったことも。
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遠い、空で——牌を——並べる、神様が——なぜ——今——この、星を——見たのか。
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その、意味を——誠が——知るのは……まだ——ずっと、先のことである。




