第2話「レベル1の勇者」
翌朝。
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誠が——店の、支度を——していると。
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裏庭から——奇妙な——掛け声が——聞こえてきた。
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「はっ! せいっ! ……ぬんっ!」
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「……何だろう」
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誠が——覗いて、みると。
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アルフレートが——木の、棒を——振り回して、いた。
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裏庭の——隅に、いる。
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小さな——スライムに——向かって。
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「はっ! ……くっ、避けられた!」
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ぷるん、と。
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スライムが——身を、かわす。
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「アルフレート様……。何を——してるんですか?」
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「おお、田中。見て——分からんか」
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アルフレートは——額の、汗を——拭いながら——胸を、張った。
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「レベル上げ、だ」
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「レベル、上げ……」
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「うむ。このままでは——ジャガイモ、一袋で——音を、上げる。情けない」
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アルフレートは——木の、棒を——構え、直した。
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「だから——地道に——鍛え直す、ことにした。まずは——この、スライム、一匹から」
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「はあ……。でも——なんで——木の、棒——なんですか?」
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「剣は——重くて——振れん」
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「……そうですか」
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かつて——星喰いを——薙ぎ払った、勇者が。
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今は——木の、棒で——スライム、一匹に——手こずっている。
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誠は——なんだか——微笑ましく、なった。
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「せいっ! ……よし、当たった!」
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ぺち、と。
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木の、棒が——スライムに——当たる。
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スライムは——特に——痛がる、様子も、なく。
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ぷるん、と——一つ——跳ねて。
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そして——どこかへ——逃げていった。
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「……逃げられた」
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アルフレートは——肩を、落とした。
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「だが——確かな——手応えは——あった」
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そして——虚空を——見つめて——呟く。
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「レベル、2……!」
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「え? 上がったんですか?」
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「うむ。今——確かに——"表示"、が——出た」
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アルフレートには——見えるのだ。
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自分の——レベルや——経験値が。
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目の前の——空間に。
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まるで——文字の、ように——浮かんで、見える。
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誠には——見えない。
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けれど——アルフレートには——昔から——それが——見えるらしい。
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「不思議——ですよね。アルフレート様には——そういうの——見えるんですね」
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「うむ。……昔は——当たり前だと——思っていたが」
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アルフレートは——ふと——遠い目を、した。
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「今に、して——思えば……なぜ——俺にだけ——見えるのか——不思議、だな」
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(——なぜ、だろうな)
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アルフレートは——ぼんやりと——昔のことを——思い出す。
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そういえば——自分は。
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——ずっと、昔。
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もっと——小さな——世界に、いた——気がする。
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決められた——道を、歩き。
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決められた——言葉を、話し。
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いや——。
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「……いや。思い出せん、な」
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アルフレートは——首を、振った。
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昔のことは——霧が、かかったように——ぼんやりと、している。
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思い出せるのは——ただ。
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ある日、突然。
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自分の中に——"勇者"、という——文字が——灯った、ことだけ。
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「まあ——よい。過ぎた——ことだ」
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アルフレートは——また——木の、棒を——構えた。
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「今は——レベル上げ、だ。次の——スライムを——探すぞ!」
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「ほどほどに——してくださいね。お昼——できてますから」
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その、日の——夕方。
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アルフレートは——泥だらけに——なって——帰ってきた。
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「ふっ……。見ろ、田中。レベル、5だ」
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「おお! 一日で——5まで! すごいじゃ、ないですか」
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「まだまだ——序の口だがな」
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アルフレートは——満足げに——笑った。
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その、顔は。
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かつて——世界を——救った、時よりも。
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どこか——晴れやかで。
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「なあ、田中」
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「はい?」
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「レベルが——1から——始まるのも……悪くない、ものだな」
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アルフレートは——夕日を——見上げながら——言った。
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「一つずつ——数字が——増えていく。それが——目に、見える」
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「自分が——少しずつ——進んでいるのが——分かる」
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「……そうですね」
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誠は——相槌を——打った。
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けれど——内心で。
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ほんの——少しだけ。
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(——数字で、見えるって……どんな——感じ、なんだろう)
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と——思った。
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誠には——分からない。
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自分が——どれくらい——進んでいるのか。
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どれくらい——成長したのか。
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そういうものは——誠には——見えないし。
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そもそも——考えた、ことも——なかった。
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「まあ——僕には——関係ない、か」
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誠は——小さく——笑って。
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そして——夕飯の、支度に——戻った。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「アルフレート様が、レベル上げを、始めた。木の棒で、スライム相手に。剣は、重くて、振れないんだって。一日で、レベル5。本人、すごく、嬉しそう。"レベルが、1から、始まるのも、悪くない。一つずつ、数字が、増えて、自分が、進んでるのが、分かる"、って。……僕、ちょっとだけ、羨ましかった。僕には、そういうの、見えないから。自分が、どれくらい、進んでるのか、成長したのか、分からない。まあ、考えたことも、なかったけど。アルフレート様、昔のこと、あんまり、思い出せないみたい。"なぜ、自分にだけ、レベルが、見えるのか、不思議だ"、って。言われてみれば、確かに、不思議だなあ」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。アルフレートに——"見える"、もの。そして——自分には——"見えない"、もの。その、違いが——いつか——とても——大きな——意味を、持つことを。
そして——「見えないこと」こそが——実は——何よりの——証で、あったことも——今は……まだ、誰も——知らない。




