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英雄は世界を救う。モブは人の暮らしを救う。  作者: 伝説の男前
第一部:少年期

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第24話「温泉、再び」

温泉旅行から帰って、半月ほどが過ぎた。



「田中、聞いたぞ。お前、温泉を改良したんだって?」


アルフレートが、村を訪れた際、興味深げにそう切り出した。


「あ、はい。同級生との集まりで、たまたま」


「その話、詳しく聞かせてくれ」



「実は、僕たちも最近、遠征の疲れが溜まっていてな」


アルフレートが、少し疲れた様子で肩を回した。


「戦続きで、パーティ全員、体のあちこちが悲鳴を上げている」



「田中さんの改良した温泉、そんなに良いのですか」


シエナも、興味深げに尋ねてきた。


「体の芯から温まるって、評判になってるみたいです」


「それは、ぜひ試してみたいな」


ゴードンが、豪快に笑いながら言った。



「よし、決めた。次の休息は、その温泉宿にしよう」


アルフレートの一声で、パーティ全員での温泉旅行が、急遽決まってしまった。


「あの、僕も、同行した方がいいですか」


「もちろんだ。お前が改良したんだろう。宿の主人にも、色々説明してもらわないと」



こうして誠は、再びあの温泉宿へと向かうことになった。今度は、アルフレート率いる冒険者パーティ一行との旅だった。



宿に到着すると、宿の主人が、大歓迎で一行を出迎えた。


「田中様! それに、勇者様まで!」


「その節は、世話になったな」


アルフレートが、鷹揚に頷いた。



夕食後、いよいよ温泉の時間になった。


「田中殿、殿方用のお風呂は、こちらです」


女中に案内され、誠は、アルフレートたちと共に、湯殿へと向かった。



湯殿の扉を開けた瞬間、誠は、思わず立ち尽くした。



そこには、すでに数名の先客がいた。


「おお、田中の噂の温泉か!」


大柄な体躯に、隆々とした筋肉を纏った、屈強な男たちが、湯に浸かりながら、談笑していた。



「こちら、王都から遠征に来ている、別の冒険者パーティの方々だ」


アルフレートが、そう説明した。


「田中の温泉改良の噂は、王都の冒険者ギルドでも、随分と広まっているようでな」



「おお、あんたが噂の田中か! 話は聞いてるぜ!」


一人の筋骨隆々とした戦士が、湯から立ち上がり、誠に近づいてきた。全身に刻まれた無数の傷跡が、歴戦の証を物語っていた。


「よ、よろしくお願いします……」



誠が、恐る恐る湯に浸かると、周囲を、次々とマッチョな男たちが取り囲んできた。


「田中よ、この薬草の配合、詳しく教えてくれよ!」


「体が芯から温まるって、本当か!?」


「俺も、最近、遠征続きで、肩がガチガチでな!」



(な、なんだ、この状況は……)


誠は、四方八方から、筋肉質な男たちに囲まれ、たじろいでいた。



「田中殿、この配合成分は、傷の治りにも効果があるのだろうか」


別の傷だらけの戦士が、真剣な顔で尋ねてきた。


「え、えっと、傷の治りを早める効果は、確認できていませんが……成分的には、期待できるかもしれません」


「おお、さすがだな!」



湯船は、いつの間にか、筋肉質な男たちで、ぎゅうぎゅう詰めになっていた。


「田中、こっちに来て、もっと詳しく教えてくれ!」


「田中殿、この筋肉痛にも効くのか、試してみてくれないか」



「あ、あの、皆さん、少し近……」


誠は、四方から迫る屈強な体躯に、逃げ場を失っていた。



「フハハ! 田中は、随分と人気者だな!」


ゴードンまでもが、豪快に笑いながら、誠の肩を組んできた。


「お前の薬草知識、俺たち戦士連中には、垂涎ものだぜ!」



「田中殿、こちらもお願いできますか」


「田中、この筋を、ちょっと見てくれよ」



(これは、想像していた展開と、随分違う……)


誠は、心の中で、密かにそう思った。かつて漫画やアニメで見た「温泉回」のイメージとは、あまりにもかけ離れた光景だった。



「田中よ、湯上がりに、皆で筋トレでもどうだ」


「い、いえ、僕は、その、体力に自信がないので……」


「なに、遠慮するな! 皆で汗を流そうじゃないか!」



「た、田中殿、この筋肉の張り、見てくれ」


一人の戦士が、逞しい上腕二頭筋を、誠の目の前に見せつけてきた。


「え、えっと……」


「触ってみるといい、鍛え上げた成果だ」


「い、いえ、そこまでは……」



湯殿は、いつしか、筋肉自慢大会のような様相を呈していた。


「田中殿の育てた薬草のおかげで、我々の肉体は、さらなる高みへと向かえるだろう!」


「そうだそうだ!」



アルフレートは、その様子を、少し離れた場所で、面白そうに眺めていた。


「アルフレート様……助けてください……」


誠が、涙目で助けを求めたが、アルフレートは、ただ楽しそうに笑うだけだった。


「田中、お前は、本当に、人望があるな」


「これは、人望というより……」



結局、その夜、誠は、屈強な男たちに囲まれ、延々と薬草談義と筋肉談義に付き合わされることになった。



「田中、今度は、俺たちのパーティにも、薬草を融通してくれよ」


「田中殿、また会おう。次は、もっと詳しい話を聞かせてくれ」



湯殿を出た誠は、疲れ果てた様子で、部屋に戻った。


「お疲れのようだな、田中」


アルフレートが、少し笑いながら声をかけてきた。


「アルフレート様……なぜ、助けてくれなかったんですか」


「いや、あまりにも面白い光景だったのでな」



「田中の周りには、なぜか、いつも人が集まるな」


アルフレートが、しみじみと呟いた。


「良くも悪くも、な」


「それ、慰めになってません」



その夜、誠は祖父のノートに、力なく書き加えた。


「温泉で、勇者一行だけでなく、他の冒険者パーティの、屈強な男たちにまで囲まれてしまった。皆、薬草の話と、筋肉の話ばかりで、正直、疲れた。じいちゃん、俺は今日も、想像とは違う一日を過ごしたよ」



窓の外、二つの月が、静かに浮かんでいた。



まだこの時の誠は知らない。この温泉での縁が、この後、思いがけない形で——多くの冒険者たちとの絆を深め、いざという時の頼もしい味方を得ることに繋がっていくことを。


そして、この「田中の周りには、なぜか人が集まる」という現象もまた、この後のシリーズを通じての、もう一つの"鉄板"になっていくことも——今はまだ、知る由もなかった。

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