第240話「神様の、旅立ち」
「あいつの……もとへ……行こうと、思う」
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神様の——その、言葉に。
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誠は——胸が——ざわついた。
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「神様……。"行く"、って……どこへ……」
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神様は——静かに——微笑んだ。
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「ワイは……もともと……"天の、住人"、や。星喰いを、見守るために……月に、なって……この、世界に……留まっとった」
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「でも……その、役目は……終わった」
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「じゃあ……月は……」
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「ああ。ワイが……月で、あり続ける、必要も……なくなった」
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神様は——空の——二つの、月を——見上げた。
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「ワイは……あいつと……"必ず、また、会おう"、って……約束した。四百年……その、約束を……果たせへんかった」
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「でも……お前が……繋いでくれた。あいつの、魂と……ワイを」
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神様は——静かに、続けた。
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「せやから……今度は……ワイの、方から……あいつに……会いに、行く、番や」
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「会いに……行く……」
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誠は——ようやく——理解した。
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神様が——"逝く"、という——その、意味を。
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「神様は……いなくなっちゃうんですか……?」
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誠の、声が——震えた。
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「まあ……そう、なるなあ」
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神様は——飄々と——言った。
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「でも……そんな……悲しい、顔、すんなや、田中はん」
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「だって……神様……」
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誠は——目を、伏せた。
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「神様は……いつも……変なこと、ばっかり、言って……肝心なことは……教えてくれなくて……」
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「でも……いつも……そばで……見守って、くれてました」
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「田中はん……」
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「僕……神様のこと……好きでした。だから……いなくなるのは……寂しいです」
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神様は——少し——驚いた、ように——目を、見開いた。
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そして——ふっ、と——優しく——笑った。
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「……ありがとうな、田中はん」
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「なあ、田中はん。最後に……一つだけ……教えたる」
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神様は——静かに、言った。
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「ワイが……なんで……お前を……この、世界に……"呼んだ"、か……分かるか?」
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「え……? 僕を……呼んだ……?」
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誠は——驚いた。
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「僕が……この、世界に、来たのは……偶然じゃ……なかったんですか?」
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「偶然な、わけ、ないやろ」
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神様は——悪戯っぽく——笑った。
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「ワイが……呼んだんや。星喰いに……抗える……"誰か"、を」
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「でも……なんで……僕、だったんですか。僕は……ただの……八百屋の、孫で……戦う力も……特別な、才能も……ないのに……」
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「それや」
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神様は——静かに、言った。
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「ワイが……いろんな、世界を……見て、回って……星喰いに……抗える、"力"、を……探しとった、時」
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「一番、強い、戦士でも……一番、賢い、賢者でも……なかった」
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神様は——誠を——まっすぐ、見た。
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「ワイが……見つけたんは……八百屋の、店先で……困っとる、人を……放っておけへん……お前、やった」
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「人と、人を……繋ぐ。困っとる、人が、おったら……手を、差し伸べる。そういう……"当たり前"、のことを……当たり前に……できる、お前が」
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「星喰いに……抗える……唯一の……"力"、やと……ワイは……思うたんや」
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誠は——胸が——熱くなった。
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「神様……」
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「そして……ワイの、目に……狂いは……なかった」
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神様は——晴れやかに——微笑んだ。
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「お前は……戦わずに……世界を、救うた。繋がりで……皆を、幸せに、した」
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「あいつが……四百年前に……願った……"皆で、力を、合わせる"、ことを……お前が……果たした」
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「ほんまに……ありがとうな、田中はん」
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神様の——身体が。
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少しずつ——光の、粒に——なって——空へと——昇り始めた。
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「神様……!」
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「泣くな、泣くな。ワイは……これから……あいつに……会いに、行くんや。嬉しい……門出、やで」
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神様は——最後に——誠に——笑いかけた。
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「田中はん。これからも……その……"繋がり"、を……大事に、な」
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「それが……お前の……一番の……"力"、なんやから」
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「はい……! 神様……! ありがとう、ございました……!」
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誠は——涙を、流しながら——精一杯——笑った。
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「よそ者さんに……! よろしく……! 二人で……仲良く……!」
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「おう。伝えとくわ」
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そして——神様の、身体は。
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完全に——光の、粒と、なって。
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空へと——昇っていった。
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同時に——空の——二つの、月の、片方が。
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ゆっくりと——薄れ——消えていった。
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四百年——神様が——親友の、ために——捧げ続けた——月。
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その、役目を——終えて。
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空には——再び——一つの、月だけが——残った。
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その日、誠は、後に、祖父のノートに、こう書き加えることになる。
「神様が……旅立った。"あいつに、会いに、行く番や"、って。神様は……いなくなる。寂しい、って、言ったら……"好きでした、って……ありがとうな"、って。最後に、教えてくれた。僕が、この世界に、来たのは……偶然じゃ、なくて……神様が、呼んだんだ、って。星喰いに、抗える、"誰か"、を。一番、強い、戦士でも、賢者でも、なくて……"八百屋の、店先で、困ってる人を、放っておけない、お前だった"、って。"人と人を、繋ぐ、当たり前のことを、当たり前に、できる、お前が、星喰いに、抗える、唯一の、力だ"、って。そして……"ワイの、目に、狂いは、なかった。お前は、戦わずに、世界を、救うた"、って。神様の、身体が、光の粒に、なって……空へ。二つの月の、片方が、消えて……空には、また、一つの月だけ。神様……よそ者さんと、二人で、仲良く。ありがとう、ございました。じいちゃん……また、一つ……大事な、出会いと、別れが、あったよ」
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心の中に——今は——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。神様が、去り……二つだった、月が……一つに、戻った、この、世界で——これから……本当の……"日常"、が……始まることを。
そして——守り抜いた、その、日常こそが……最も……尊い、ものであることも——今は……静かに……噛みしめていた。




