番外編・その七「勇者、サブクエを探す」
平和な——ある日の、午後。
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村の、広場で。
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アルフレートは——一人の——老婆に——目を、つけた。
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日向ぼっこを、しながら——のんびりと——編み物を、している——マーサ婆さん、だった。
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「ふむ……」
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アルフレートは——顎に——手を、当てた。
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「この、婆さん……間違い、なく……"サブクエスト"、を……持っている」
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そばに、いた——誠が——嫌な、予感を、した。
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「アルフレート様……。また……何か、変なこと……考えてませんか」
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「変なこと、では、ない。セオリーだ」
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アルフレートは——確信に、満ちた、顔で、言った。
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「村の、外れで……一人……日向ぼっこを、している……老婆。こういう、キャラクターは……必ず……"隠された、依頼"、を……持っている、ものだ」
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「例えば……"亡くした、孫の、形見を、探してほしい"、とか……"昔、封印した、魔物が……"、とか」
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「絶対、ないと、思いますけど……」
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だが——アルフレートは——すでに——マーサ婆さんの、方へ——歩き出していた。
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「そこの、老婆よ」
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アルフレートは——恭しく——マーサ婆さんに——話しかけた。
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「マーサ婆さん、じゃよ」
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「マーサ殿。何か……困っている、ことは、ないか。俺が……力を、貸そう」
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マーサ婆さんは——のんびりと——顔を、上げた。
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「おや、勇者さま。ええと……。今日は……いい天気じゃのう」
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「……それだけ、か?」
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アルフレートは——首を、傾げた。
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「他に……何か……"言いたいこと"、が……あるのでは、ないか?」
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「言いたいこと……? ええと……。膝が……ちょいと……痛くてのう」
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「それだ!」
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アルフレートは——身を、乗り出した。
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「膝が、痛い……! つまり……"薬草を、採ってきてほしい"、という……依頼だな! 任せろ! どこの、薬草だ! 何個、必要だ!」
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マーサ婆さんは——きょとん、とした。
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「いや……。歳を、取れば……膝くらい……痛くなるもんじゃよ」
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「依頼、では、ない?」
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「依頼、って……なんじゃ、それ」
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アルフレートは——引き下がらなかった。
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「隠さなくて、いい。俺は……勇者だ。どんな、困難な、依頼でも……果たして、みせる」
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「亡くした、家族は……いないか? 探している、宝は? 封印された、魔物は?」
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「そんなもん……ないよ」
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マーサ婆さんは——編み物を——再開した。
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「いや、絶対、ある」
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「ないって……言うとろうが」
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こうして——アルフレートの——"サブクエスト、探し"、が——始まった。
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一時間後。
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「では……若い、頃の……悔いは? 会いたい、人は?」
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「ないよ」
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二時間後。
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「隠された、財宝の、地図とか……持って、いないか?」
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「持っとらんよ」
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三時間後。
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「では……この、村に……古くから、伝わる……禁断の、伝説は……」
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「……もう、ええ加減に、してくれんかのう」
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マーサ婆さんは——ついに——うんざり、した。
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「わしは……ただ……のんびり……編み物が、したいだけ、なんじゃ」
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「頼むから……帰って、くれんか、勇者さま」
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「なっ……! そんな、はずは……!」
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アルフレートは——愕然と、した。
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「三時間、粘っても……"フラグ"、が……立たない、だと……!?」
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その時——誠が——アルフレートの、襟首を——掴んだ。
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「アルフレート様! いい加減に、してください!」
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「田中……!」
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「あなた……三時間、ずっと……マーサ婆さんに、絡んでたんですよ! これは……もう……"営業妨害"、です!」
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「営業……妨害……?」
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「マーサ婆さんは……編み物を……売って、生計を、立ててるんです! あなたが……ずっと、話しかけてるせいで……全然……編めてないじゃ、ないですか!」
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アルフレートは——マーサ婆さんの——手元を——見た。
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三時間前と——ほとんど——変わっていない——編みかけの、マフラー。
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「……すまない、マーサ殿」
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アルフレートは——深々と——頭を、下げた。
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「俺は……とんだ……"迷惑"、を……」
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「分かれば……ええんじゃよ」
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マーサ婆さんは——ふっ、と——笑った。
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「勇者さまも……暇なら……手伝って、くれんかのう。この、毛糸、玉に……巻いて、ほしいんじゃ」
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「それだ!」
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アルフレートが——再び——目を、輝かせた。
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「ついに……"依頼"、が……!」
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「ただの……手伝い、じゃ!」
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こうして——世界最強の、勇者は。
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三時間、粘った、末に。
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"毛糸の、玉巻き"、という——世にも、しょうもない——"サブクエスト"、を——手に、入れた。
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「よし……! 完璧に……巻いたぞ、マーサ殿!」
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アルフレートは——真剣な、顔で——毛糸を、巻いた。
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「うむ。上手いもんじゃ。ありがとうよ、勇者さま」
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その、瞬間。
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アルフレートの、目に——何か、が——表示された。
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「……! 出た! "クエスト、達成! 報酬:マーサの、感謝"!」
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「……それ、報酬、ゴールドじゃ、ないんですね」
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誠は——呆れた。
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「いや……」
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アルフレートは——静かに——マーサ婆さんを——見た。
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「"感謝"、というのは……案外……悪くない、報酬だ」
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マーサ婆さんの——皺だらけの、顔に——浮かんだ——温かい、笑顔。
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それは——どんな、宝物より——価値が、あるように——アルフレートには——思えた。
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「そうか……」
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アルフレートは——ぽつり、と、呟いた。
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「サブクエストの……本当の、報酬は……"ゴールド"、でも……"アイテム"、でも、なく……」
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「こういう……人の、"笑顔"、なのかも……しれないな」
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誠は——微笑んだ。
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「アルフレート様……。それ……いいこと、言いますね」
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「まあ……三時間、営業妨害した、のは……忘れませんけど」
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「……それは……本当に、すまなかった」
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その、日から。
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アルフレートは——時々。
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マーサ婆さんの——毛糸巻きを——手伝うように、なった。
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「勇者さま。今日も……いい天気じゃのう」
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「ああ。マーサ殿。今日も……毛糸を、巻こう」
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世界最強の、勇者と——小さな、村の、老婆。
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その、間に——いつしか——小さな、"繋がり"、が——生まれていた。
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その、様子を——見ていた、誠は——静かに、思った。
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(アルフレート様も……変わったな)
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(最初は……皆を、"NPC"、だとか……"サブクエ"、だとか……言ってたのに)
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(今は……ちゃんと……一人一人と……向き合ってる)
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「これも……"繋がり"、の、力……なのかもしれないな」
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誠は——ふっ、と——笑った。
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窓の外——ではなく——広場の、向こうに——傾きかけた、陽が——差していた。
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そして——夜に、なれば——そこに——二つの、月が——昇るのだった。
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まだこの時の誠は知らない。アルフレートが、マーサ婆さんと、結んだ、この、小さな、"繋がり"、も——やがて……世界を、救う、大きな、"繋がり"、の……一部に、なることを。
そして——"感謝"、という、報酬こそが……この、世界で、一番……価値の、あるもので、あることも——今はまだ、深くは……気づいていなかった。




