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英雄は世界を救う。モブは人の暮らしを救う。  作者: 伝説の男前
第一部:少年期

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第21話「魔法学院、入学」

店の再建から一ヶ月ほど過ぎた頃、思いがけない話が舞い込んできた。



「田中さん、これを」


村長が、一通の手紙を持って、誠の店を訪れた。


「王都の魔法学院からの、招待状だ」


「魔法学院、ですか」


誠は驚いた。手紙には、こう書かれていた。


「先の選定の儀にて、規格外の魔力反応を示した者として、貴殿を魔法学院・特別聴講生として招待する」



「あの時の、暴発のことですかね……」


誠は、転移直後の記憶を思い出した。大魔法使い選定で、寝坊とくしゃみによって、魔法陣を暴発させてしまった、あの出来事。


「あれから、随分と時間が経っていますが」


「王国も、色々と手続きに時間がかかったんだろう」


村長は、そう言って苦笑いした。



「田中さん、これは、すごいことじゃないですか!」


エリナが、目を輝かせて言った。


「魔法学院ですよ! 田中さんに、実は魔法の才能があったってことじゃないですか?」


「いや、あの時のは、ただの事故というか……」


「でも、招待されるくらいですから、何かあるはずです!」



誠自身は、あまり期待していなかった。しかし、店の若い衆やゴラムまでもが、興奮気味に誠を後押しした。


「行ってこいよ、誠! もしかしたら、大魔法使いになれるかもしれないじゃないか!」


「魔王討伐に、直接関われるかもしれませんし」


「せっかくの機会です、行ってみましょう」



こうして誠は、店をトビアスとエリナに任せ、王都の魔法学院へと向かうことになった。



魔法学院は、誠が想像していたよりも遥かに壮大だった。


高い尖塔がいくつも立ち並び、空には、魔法で作られたと思しき奇妙な形の雲が浮かんでいる。校門をくぐると、杖を持った学生たちが、あちこちで魔法の練習をしていた。


「すごい……」


誠は、思わず立ち尽くした。



「ようこそ、田中誠殿」


出迎えてくれたのは、白髪の老齢の魔法使い——学院長だという——だった。


「あの選定の儀での、貴殿の魔力反応は、記録的なものでした。長らく調査に時間がかかりましたが、これより特別聴講生として、基礎課程から学んでいただきます」


「よろしくお願いします」


誠は、深く頭を下げた。



初日は、基礎的な魔力測定から始まった。


「では、この水晶に、魔力を流してみてください」


担当教師の指示に従い、誠は水晶に手をかざした。



水晶が、まばゆく輝いた。


「おお……! これは、素晴らしい数値です!」


教師が、興奮した様子で記録を取った。


「歴代でも、五本の指に入る魔力量です!」



(やっぱり、あの時のは、偶然じゃなかったのか……?)


誠は、少し期待を抱き始めていた。


しかし——



「では次に、この魔力を使って、簡単な着火魔法を練習してみましょう」


教師が、そう指示した。


「はい」


誠は、教わった通りの呪文を唱え、集中しようとした。



「えっと……ファイア……」


何も起こらなかった。


「もう一度、ゆっくりと。イメージを大切に」


「ファイア……」


やはり、何も起こらない。



「おかしいですね……あれだけの魔力量があるのに」


教師が、首を傾げた。


何度試しても、誠の手からは、小さな火花一つ生まれなかった。



「魔力の『量』は規格外なのですが……『制御』が、著しく苦手なようですね」


数日間の検査の結果、教師陣が出した結論は、そういうものだった。


「制御が苦手、というと……」


「例えるなら、大きなタンクに、水が満タンに入っているのに、蛇口の使い方が全く分からない、という状態です」



「では、練習を続ければ……」


「もちろん、可能性はあります。ただ……」


教師は、少し言いにくそうに続けた。


「貴殿の場合、その、集中力に、少し難があるようでして」



実際、誠の授業態度には、深刻な問題があった。


「田中殿、また、あくびを……」


「す、すみません。畑仕事の癖で、朝早く目が覚めてしまって、この時間は、いつも眠くなるんです」



「では、こちらの実践訓練で……」


「あ、その、少しお腹が空いてしまって……」


「集中してください、田中殿」


「はい、すみません……」



授業を重ねるごとに、教師陣の表情は、期待から困惑へと変わっていった。


「規格外の魔力を持ちながら、これほど発動が安定しない生徒は、初めて見ます」


「くしゃみをすると、なぜか魔力が暴発するのですが、これは、一体……」


「集中している時より、ぼーっとしている時の方が、魔力が安定するというのも、前代未聞です」



「田中殿。単刀直入に申し上げます」


半月ほどの特別課程を終えた後、学院長が、改まった様子で誠を呼び出した。


「貴殿の魔力量は、間違いなく歴代トップクラスです。しかし、その制御においては……率直に言って、学院始まって以来の、最低クラスの適性です」


「そう、ですか……」


誠は、特に落胆した様子もなく、頷いた。



「このままでは、大魔法使いとしての育成は、正直、難しいと言わざるを得ません」


「わかりました。無理にとは、思いません」


「ただ……」


学院長は、少し言葉を選びながら続けた。


「その規格外の魔力を、うまく活用する方法が、一つだけあります」



「なんでしょうか」


「貴殿の育てているという、あの薬草——タナカソウ、といいましたか。もしや、栽培の際に、無意識に魔力を注いでいるのでは?」


誠は、驚いた。


「言われてみれば……水をやる時、いつも『元気に育て』と、念じてはいますが」



「それです。貴殿の莫大な魔力は、呪文の発動には向いていませんが、植物への働きかけには、驚くほど親和性が高いようです」


「植物への、働きかけ……」


「おそらく、貴殿の育てる薬草が、通常より高い効能を持つのは、偶然ではないでしょう」



「つまり……」


「貴殁は、戦闘魔法使いとしては、致命的に不向きです。しかし、無意識のうちに、植物や、あるいは治療行為に、その膨大な魔力を注ぎ込んでいる。これは、これで、非常に稀有な才能と言えるでしょう」



誠は、少し複雑な気持ちで、その説明を聞いていた。


(結局、大魔法使いにはなれなかったか……)


しかし、不思議と、落胆はしていなかった。



「田中殿、貴殿を、正式な魔法使いとして認定することは、できません。しかし——」


学院長は、少し微笑んだ。


「貴殿のような者を、私は他に知りません。これも一つの、貴殿らしい在り方なのでしょう」



こうして誠は、魔法学院を、正式な魔法使いとしてではなく、「規格外だが制御不能な魔力を持つ、変わり者の卒業生」として後にすることになった。



村に戻った誠を、エリナや村人たちが、期待に満ちた顔で迎えた。


「田中さん! どうでしたか、魔法学院は!」


「それが……」


誠は、苦笑いしながら、事の顛末を説明した。



「つまり、魔法使いにはなれなかった、ということですか」


「はい。ただ、僕の魔力は、どうやら、薬草を育てるのに、無意識に使われていたみたいです」


「それって……」


エリナは、少し考えてから、笑顔になった。


「田中さんらしい、結果ですね」


「そう、でしょうか」


「はい。派手な魔法よりも、ずっと田中さんらしいと思います」



その夜、誠は祖父のノートに、こう書き加えた。


「魔法学院に行ってきた。歴代トップクラスの魔力量があるらしいが、制御が全くできなかった。結局、大魔法使いにはなれなかった。でも、その魔力が、無意識に薬草に注がれていたと聞いて、なんだか、腑に落ちた気がする。じいちゃん、俺の力は、こういう形でしか、発揮されないみたいだ」



窓の外、二つの月が、静かに輝いていた。



まだこの時の誠は知らない。この「制御不能の規格外魔力」という設定が、この後、思いがけない形で——薬草の効能を飛躍的に高め、そして、この世界の何千人もの命を救う、大きな鍵になることを。


そして、魔法学院で出会った、ある変わり者の生徒との縁が、この後の人生に、深く関わってくることも——今はまだ、知る由もなかった。

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