第207話「決行前夜」
作戦の、準備が——整った。
⸻
決行は——明日の——朝。
⸻
太陽が——最も、高く、昇る、頃を——狙う。
⸻
その、決行前夜。
⸻
⸻
拠点には——不思議な——静けさが——漂っていた。
⸻
⸻
皆——それぞれの、思いを——胸に——明日に、備えていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
誠は——出店で——いつものように——料理を、作っていた。
⸻
⸻
「田中……。こんな、時にも……料理か」
⸻
⸻
竜崎が——やってきた。
⸻
⸻
「うん。皆……明日に、備えて……しっかり、食べて、ほしいから」
⸻
⸻
⸻
誠は——温かい、料理を——竜崎に、差し出した。
⸻
⸻
「腹が、減っては……戦も、できない。じいちゃんの……口癖だったんだ」
⸻
⸻
「はは。違いない」
⸻
⸻
竜崎は——料理を、頬張った。
⸻
⸻
「……美味い。やっぱり……田中の、飯は……格別だ」
⸻
⸻
⸻
⸻
一人、また一人と——皆が——出店に、集まってきた。
⸻
⸻
グランデル。藤原。黒崎。森川。皆瀬。一色。そして——アルフレート。
⸻
⸻
⸻
明日——命を、賭けて——戦う、者たち。
⸻
⸻
その、皆が——今夜は——誠の、料理を——囲んでいた。
⸻
⸻
⸻
「なあ、田中」
⸻
⸻
グランデルが——ぽつり、と、言った。
⸻
⸻
「もし……この、戦いが……終わったら……何が、したい?」
⸻
⸻
⸻
「え?」
⸻
⸻
誠は——少し、考えた。
⸻
⸻
「そうだなぁ……。また……皆で……こうやって……ご飯を、食べたい、かな」
⸻
⸻
「戦いじゃ、なくて……ただ……平和な、日常で……」
⸻
⸻
⸻
「ええなぁ、それ」
⸻
⸻
藤原が——微笑んだ。
⸻
⸻
「うちは……のんびり……空を、飛びたいわ。誰かを、乗せて、逃げるんやなくて……ただ……気持ちよく」
⸻
⸻
⸻
「ワシは……酒や! 田中の、飯を、肴に……浴びるほど、飲むで!」
⸻
⸻
グランデルが——豪快に、笑った。
⸻
⸻
⸻
皆が——思い思いに——"戦いの、後"、の、夢を——語り合った。
⸻
⸻
その、光景は——温かく——そして——少し——切なかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
「田中くん」
⸻
⸻
皆瀬が——静かに、揺れた。
⸻
⸻
「明日……私たち、スライムも……全力を、尽くすね」
⸻
⸻
「うん。無理は……しないでね、皆瀬さん」
⸻
⸻
⸻
「ふふ。田中くんは……いつも……私たちの、心配、ばっかり」
⸻
⸻
皆瀬は——優しく、揺れた。
⸻
⸻
「あなたに……身体を、もらって……皆と、繋がって……本当に……良かった」
⸻
⸻
「明日……その……"繋がり"、で……皆を、守るからね」
⸻
⸻
⸻
⸻
やがて——夜も、更け——皆が——それぞれの、寝床へ——戻っていった。
⸻
⸻
誠は——一人——高原に——残った。
⸻
⸻
⸻
「じいちゃん……。明日……大きな、戦いが、あるんだ」
⸻
⸻
誠は——夜空を——見上げた。
⸻
⸻
「怖い。皆が……無事で……いられるか……分からない」
⸻
⸻
「でも……皆と……一緒なら……きっと……やり遂げられる」
⸻
⸻
⸻
その時——背後から——声が、した。
⸻
⸻
「よお、田中はん。眠れへんのか」
⸻
⸻
振り向くと——あの、神様が——立っていた。
⸻
⸻
「神様……」
⸻
⸻
⸻
神様は——誠の、隣に——ふわり、と——腰を、下ろした。
⸻
⸻
「明日……でかい、勝負、なんやろ?」
⸻
「はい」
⸻
⸻
「そうか……。頑張りや」
⸻
⸻
神様の、声は——いつになく——優しかった。
⸻
⸻
⸻
「なあ、田中はん」
⸻
⸻
神様は——夜空を——見上げた。
⸻
⸻
「ワイは……昔……大事な、"相棒"、を……守れへんかった」
⸻
⸻
「守れなかった……?」
⸻
⸻
「ああ。ワイに……もっと、力が、あれば……あいつを……助けられたかもしれん。でも……できへんかった」
⸻
⸻
⸻
神様の、声は——遠く——寂しげだった。
⸻
⸻
「せやから……田中はん。お前は……守りや。大事な、もんを……何としても……守り抜くんや」
⸻
⸻
⸻
「神様……」
⸻
⸻
「まあ……ワイに、できるのは……見守ることくらいや。でも……お前なら……できる」
⸻
⸻
神様は——静かに、微笑んだ。
⸻
⸻
「お前には……ワイに、なかった……"繋がり"、が、あるからな」
⸻
⸻
⸻
そう、言い残して——神様は——ふわり、と——消えていった。
⸻
⸻
⸻
「神様の……相棒……」
⸻
⸻
誠は——呟いた。
⸻
⸻
「一体……どんな、人、だったんだろう」
⸻
⸻
⸻
その、答えは——まだ——見えなかった。
⸻
⸻
だが——誠は——静かに——明日への、決意を——固めた。
⸻
⸻
⸻
その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「明日、いよいよ、決行だ。決行前夜……皆が、出店に、集まって、僕の、料理を、囲んだ。グランデルさんが、"戦いが、終わったら、何が、したい?"、って。皆で、"戦いの、後"、の、夢を、語り合った。僕は……また、皆で、ご飯を、食べたい。藤原さんは、のんびり、空を、飛びたい。グランデルさんは、酒。温かくて……少し、切なかった。皆瀬さんが、"あなたに、身体を、もらって、皆と、繋がって、本当に、良かった。明日、その、繋がりで、皆を、守る"、って。夜、神様が、来た。いつになく、優しくて……"昔、大事な、相棒を、守れなかった。だから、お前は、守り抜け"、って。神様の、相棒……一体、どんな、人だったんだろう。神様は、"お前には、ワイに、なかった、繋がりが、ある"、って。じいちゃん……怖い。でも……皆と、一緒なら……やり遂げられる。明日……必ず、守り抜くよ」
⸻
窓の外——裂けた、空と——二つの、月。
⸻
まだこの時の誠は知らない。神様が、語った、"守れなかった、相棒"、こそが——この、戦いの……そして……この、世界の……"真実"、に……深く、関わる、人物で、あることを。
そして——その、相棒が……四百年前……この、星に……"抗う、術"、を……遺していった、ことも——今はまだ、知る由もなかった。




