第185話「運ぶ者たちの、限界」
誠の——回復の、力が——誰にでも、効く。
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その、発見は——大きな、希望だった。
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だが——それでも——戦況は——好転しなかった。
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根本的な——問題は——別に、あったからだ。
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「田中……。正直に、言う」
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ある日——藤原が——疲れ果てた、顔で、言った。
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「うちら……龍族も、鬼族も……"運ぶ"、のが……限界に、近い」
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「運ぶのが……限界?」
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「そうや。スライムを、空へ、運んで……戦って……また、運んで……。一日中……その、繰り返しや」
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藤原は——ため息を、ついた。
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「田中くんが……回復させてくれるから……戦えとる。でも……"運ぶ"、体力までは……回復しきれへん」
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誠は——はっと、した。
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確かに——誠の、力は——傷を、癒し——体力を、回復させる。
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だが——龍族や、鬼族が——スライムを、運ぶために、費やす——時間と、労力そのものは——減らせなかった。
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「巨大な、レンズに、なると……運ぶ、スライムの、数も……膨大に、なる」
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桜庭が——指摘した。
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「それを……毎回……空へ、運んで……また、降ろして……。運搬だけで……一日の、大半が……終わってしまうの」
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「そうか……。戦う、時間より……運ぶ、時間の方が……長くなってる……」
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誠は——考え込んだ。
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「なあ、田中」
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グランデルが——言った。
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「いっそ……スライムを……ずっと、空に……置いとく、わけには……いかんのか?」
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「空に、置いとく?」
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「そうや。毎回、運ぶから……大変なんや。最初から……空に、いてくれたら……運ぶ、手間が……省ける」
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「でも……スライムは……自分では、飛べないよ」
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誠は——首を、傾げた。
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「それに……ずっと、空に、いたら……光の柱の、的に……なっちゃう」
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「うーん……。それも、そうやな」
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グランデルは——腕を、組んだ。
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その時——皆瀬が——ぽつり、と、言った。
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「あのね……。私たち……"雲"、に……なれないかな」
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「雲?」
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「うん。私たち……霧霊スライム、でしょう? もともと……霧みたいに……薄く、広がることも……できるの」
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皆瀬は——静かに、続けた。
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「もし……霧に、なって……空に、漂っていられたら……運んでもらう、必要が……なくなるかも」
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「それに……霧なら……光の柱も……的を、絞りにくい、かも」
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「それは……! すごい、発想だ!」
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誠は——目を、輝かせた。
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「スライムの、皆さんが……霧に、なって……空に、漂う。必要な、時だけ……集まって……レンズに、なる」
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「そうすれば……運ぶ、手間が……なくなる!」
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だが——皆瀬は——不安げに、揺れた。
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「でも……やったこと、ないの。霧に、なるのは……できても……そのまま……空に、留まって……また、集まって、レンズに、なる……なんて」
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「相当……難しいと、思う」
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「そうだね……。すぐには……無理かもしれない」
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誠は——静かに、頷いた。
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「でも……それが、できれば……大きな、突破口に、なる。少しずつ……練習してみよう」
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「うん……! やってみる!」
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皆瀬は——前向きに、揺れた。
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こうして——スライムが——"霧"、に、なって——空に、漂う。
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その、新たな——挑戦が——始まった。
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運搬の、限界を——越えるための——新しい、可能性。
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「一つ、壁に、ぶつかっても……皆で、考えれば……必ず……次の、道が、見えてくる」
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誠は——静かに、思った。
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「これも……"繋がり"、の、力なんだ」
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「回復の力が、誰にでも効く、って、分かっても……戦況は、好転しない。藤原さんが、"龍族も、鬼族も、運ぶのが、限界に近い"、って。僕が、回復させても、"運ぶ"、労力そのものは、減らせない。巨大な、レンズだと、運ぶスライムも、膨大で……運搬だけで、一日の、大半が、終わる。グランデルさんが、"スライムを、ずっと、空に、置いとけたら"、って。でも、スライムは、飛べないし、的に、なる。そこで……皆瀬さんが、"私たち、霧に、なれないかな"、って。霧霊スライムだから、霧みたいに、薄く、広がれる。霧に、なって、空に、漂って……必要な時だけ、集まって、レンズに、なる。運ぶ手間が、なくなるかも。難しいけど……大きな、突破口に、なる。少しずつ、練習してみる。じいちゃん……一つ、壁に、ぶつかっても、皆で、考えれば、次の道が、見えてくる。これも、繋がりの力だ」
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窓の外——裂けた、空。
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まだこの時の誠は知らない。スライムが、"霧"、に、なって、空に、漂う、という、この、発想が——やがて……決戦で……空、全体を、覆う……巨大な、"仕掛け"、へと……発展していくことを。
そして——それが……敵の、"想定"、を、超える……重要な、一手に、なることも——今はまだ、知る由もなかった。




