第183話「疲弊する、前線」
翌朝——誠は——皆を——集めた。
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疲れ果て——心が、折れかけた——仲間たち。
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その、顔ぶれを——誠は——静かに——見渡した。
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「みんな。今日は……戦いの、話じゃ、なくて……ちょっと、聞いて、ほしいことが、あるんだ」
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皆は——気だるげに——誠を、見た。
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「僕たち……なんで、戦ってるんだろう」
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誠は——静かに、切り出した。
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「勝つ、ため? ……違う、と思う」
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皆が——顔を、上げた。
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「僕は……守りたいんだ。この、村の、暮らしを。避難民の、子供たちの、笑顔を。皆と、囲む……温かい、食卓を」
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誠は——一人、一人の、顔を——見ながら、続けた。
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「グランデルさんと……酒を、酌み交わす、夜を。藤原さんが……握り飯を、頬張る、姿を。皆瀬さんたちが……嬉しそうに、揺れる、姿を」
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「そういう……何気ない、日々を……守りたい。だから……戦ってるんだ」
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皆は——静かに——誠の、言葉を——聞いていた。
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「勝てるか、どうか……僕にも、分からない。でも……たとえ、苦しくても……皆で……一緒に、いられる、なら」
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「僕は……それだけで……戦う、意味が、あると、思うんだ」
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しん——と——静まり返った。
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やがて——グランデルが——ぽつり、と、言った。
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「……そうやな。ワシも……田中の、飯が、食えん、世界なんて……嫌や」
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「うちも……皆と、バカ話、できへんの……寂しいわ」
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藤原も——静かに、頷いた。
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折れかけていた、皆の、心に——少しずつ——温かいものが——戻ってきた。
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「そうだ……。俺たちは……守るために、戦ってるんだ」
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「勝ち負けの、数字なんて……関係、ない」
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誠は——微笑んだ。
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「うん。だから……焦らず……一緒に……やっていこう」
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その夜。
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誠は——束の間の、休息を——取っていた。
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すると——目の前に——ふわり、と——見慣れた、気配が——現れた。
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「よお、田中はん。相変わらず……しんどそうやなあ」
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麻雀好きの——あの、神様だった。
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「神様……! こんな、時に……!」
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「まあまあ。たまには……息抜きも……大事やで」
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神様は——どこからか——麻雀牌を、取り出し——ジャラジャラと——混ぜ始めた。
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「なあ、田中はん。一局……付き合わへんか」
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「今、それどころじゃ……」
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「まあ、ええから、ええから」
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神様は——勝手に——牌を、並べ始めた。
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「あんな……。ワイも……昔……えらい、"強い、相手"、と……勝負した、ことが、あんねん」
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「強い、相手?」
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「そうや。もう……手も足も、出えへん。どう、打っても……勝てへん。そういう、相手や」
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誠は——ふと——今の、状況と——重ねた。
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「その、相手には……勝てたんですか」
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「いや。……負けたわ」
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神様は——あっさりと、言った。
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「ズコー、ですよ、それ……」
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「まあ、聞きいな」
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神様は——牌を、一つ——ぴん、と、弾いた。
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「でもな……。その、勝負で……ワイ……一人やなかってん」
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「一人じゃ、なかった?」
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「相棒が……おってん。ワイの……一番の、"ダチ"、が。二人で……力を、合わせて……なんとか……その場は……しのいだんや」
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神様の、声が——ほんの、少し——寂しげに——なった。
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「今は……もう……おらんけどな」
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「神様……?」
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「いや、なんでもない、なんでもない!」
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神様は——ぱっと——いつもの、調子に、戻った。
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「まあ、要するに、や。強い、相手ほど……一人で、どうにか、しようと、したら……あかん」
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神様は——にっと、笑った。
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「"繋がり"、や。田中はん。あんたの……一番の……"武器"、やろ?」
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誠は——はっと、した。
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「神様……。それを、言いに……わざわざ……」
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「ちゃうちゃう! ワイは……ただ……麻雀が、したかった、だけや!」
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神様は——慌てて——ごまかした。
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「ほな……ワイは、行くわ。あんまり……根詰めすぎたら……あかんで」
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そう、言い残して——神様は——ふわり、と——消えていった。
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後には——並べかけの——麻雀牌だけが——残された。
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「……相変わらず……よく、分からない、神様、だなぁ」
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誠は——苦笑した。
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「でも……」
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誠は——牌を——一つ——手に、取った。
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「"繋がり"、が……武器……か」
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その、言葉は——不思議と——誠の、胸に——温かく——響いた。
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「今朝、皆に、話した。"なんで、戦ってるのか"、って。勝つためじゃない。守りたいんだ。村の、暮らしを。子供の、笑顔を。皆と、囲む、食卓を。折れかけてた、皆の、心に……少し、温かいものが、戻った気がする。グランデルさんが、"田中の飯が、食えん世界なんて、嫌や"、って。そして……夜、久しぶりに、あの、神様が、来た。麻雀、しよう、って。相変わらず、意味不明。でも……"昔、えらい、強い相手と、勝負して……一人じゃ、なくて、相棒と、力を、合わせて、しのいだ"、って。"今は、もう、おらんけど"、って……ちょっと、寂しそうだった。神様にも……何か、あるのかな。最後に、"強い相手ほど、一人で、どうにか、しようとしたら、あかん。繋がりや。あんたの、一番の武器やろ"、って。……やっぱり、繋がりだ。じいちゃん、神様まで……同じことを、言うんだ」
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窓の外——裂けた、空。
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まだこの時の誠は知らない。神様が、ぽろりと、こぼした、"強い、相手"、や、"いなくなった、相棒"、の、話が——実は……この、戦いの……"真実"、に……深く、繋がっていることを。
そして——その、"相棒"、こそが……四百年前……この、星に……"あるもの"、を、遺していった、人物で、あることも——今はまだ、知る由もなかった。




