第14話「勇者、来訪」
戦の噂から、さらに一ヶ月が過ぎた頃、それは唐突に村へやってきた。
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「王国軍だ! 王国軍が来たぞ!」
村の入り口で、子供が叫びながら走ってきた。誠が店の外に出ると、整然と隊列を組んだ兵士たちが、村の広場に向かって進んでいるのが見えた。
「何事でしょうか」
エリナも、不安げな顔で外に出てきた。
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兵士たちの先頭には、一際目を引く一人の若者がいた。輝く鎧、腰に佩いた美しい剣、そして周囲を圧倒するような存在感。村人たちが、思わず道を空けるほどだった。
「あれが……」
「勇者様だ」
「本物の勇者様を見るのは初めてだ」
村人たちのざわめきが広がる中、誠はその若者を、少し離れた場所から眺めていた。
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「この村に、腕のいい研ぎ師がいると聞いた」
村長の家に案内された誠は、目の前に立つ勇者と対面していた。近くで見ると、その若者はまだ誠と同年代か、少し若いくらいに見えた。しかし、纏う空気は、明らかに常人のそれではなかった。
「私が、田中誠です」
「アルフレートだ。王国から、魔王討伐の任を受けている」
アルフレートは、腰の剣を鞘ごと差し出した。
「これを、研いでほしい。長い遠征で、随分と刃がなまっている」
「拝見します」
誠は剣を受け取り、鞘から抜いた。刃には、無数の傷と、消えかけた血の跡が残っていた。この剣が、どれほどの戦いを潜り抜けてきたのか、誠には想像もつかなかった。
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「少し、お時間をいただきます」
誠は、店に戻り、丁寧に研ぎ始めた。
これまで研いできたどの刃物とも違う、重く、そして多くの命の重さを背負ってきたであろう剣。誠は、いつも以上に慎重に、一つ一つの傷と向き合っていった。
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作業の途中、アルフレートが誠の店を訪れた。
「随分と、真剣な顔をしているな」
「これは、特別な仕事なので」
アルフレートは、店の中を見渡した。乾燥した薬草、簡素だが手入れの行き届いた作業台。
「変わった店だな。研ぎ屋と、薬屋を兼ねているのか」
「なりゆきで、そうなりました」
「なりゆき、か」
アルフレートは、少し興味深そうに誠を見た。
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「お前、戦いには出ないのか」
唐突な質問だった。誠は、少し戸惑いながら答えた。
「僕には、戦う力がありません」
「力がなくとも、この国のために働く道はいくらでもある。物資の輸送、後方支援……」
「そういった形で、お役に立てるなら、喜んで協力します」
「ふむ」
アルフレートは、それ以上深くは聞かなかった。
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数時間後、誠は研ぎ終えた剣を、アルフレートに差し出した。
「お待たせしました」
アルフレートは、剣を抜き、陽の光にかざした。刃は、まるで新品のように輝いていた。
「……見事だな」
アルフレートは、感嘆の声を漏らした。
「城の鍛冶師にも、これほどの仕事をする者はいない」
「祖父から教わった技術です。大したことではありません」
「大したことがないと言えるのが、逆にすごいことだ」
アルフレートは、そう言って小さく笑った。
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「田中、といったな」
「はい」
「もし、この先、王都に来ることがあれば、私を訪ねるといい。お前の腕は、覚えておく」
「光栄です」
アルフレートは、代金を村長に多めに渡し、部隊を率いて村を後にした。
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「すごい人でしたね」
エリナが、アルフレートの後ろ姿を見送りながら言った。
「はい……なんというか、纏う空気が、普通の人とは違いました」
「田中さんは、緊張しませんでしたか」
「少しは。でも、剣も、包丁と同じ、ただの刃物ですから」
エリナは、その言葉に、少し安心したように微笑んだ。
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その夜、誠は祖父のノートに、その日の出来事を書き記した。
「勇者様と呼ばれる方に会った。アルフレート様というらしい。剣を研がせていただいた。不思議な人だった。強さの中に、どこか孤独なものを感じた」
窓の外、二つの月が、静かに浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。このアルフレートという青年と、これから生涯にわたる、奇妙で、しかし確かな友情を築いていくことになることを。
そして、この出会いが、田中誠という一人の商人の人生を、大きく動かし始める、最初の一歩になることも——今はまだ、知る由もなかった。




