第136話「焼けた、北の山」
空が、割れた——翌日。
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一夜が——明けた。
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奇妙なことに——夜の間は——攻撃が——止んでいた。
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まるで——敵もまた——"何か"、を——待っているかのように。
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「田中さん……昨日のは……夢じゃ、なかったんですね」
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「うん……。残念ながら」
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地下の、貯蔵庫から——恐る恐る——外に、出た、人々は。
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変わり果てた——村の、外れを——見て——言葉を、失った。
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焼け焦げた——クレーター。
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昨日まで——緑に、覆われていた、丘が——今は——黒く、抉れた、大地に——変わっていた。
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「ひどい……」
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エリナが——呆然と、呟いた。
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「これが……たった、一撃で……」
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その時——北の方から——一人の、男が——駆けてきた。
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満身創痍の——行商人だった。
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「た……助けて、くれ……!」
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誠は——駆け寄った。
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「大丈夫ですか! 何が、あったんですか!」
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「北が……北が……全滅、だ……!」
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行商人は——震えながら——語った。
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「北の……山も……村も……町も……全部……あの、光で……焼かれた……」
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「一晩で……何もかも……灰に……」
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誠は——愕然と、した。
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「そんな……北が、全部……」
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「わしは……たまたま……南に、向かってて……助かった……。でも……他の、皆は……」
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行商人は——その場に——崩れ落ちた。
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誠は——すぐに——彼を、介抱した。
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「今、手当てします。エリナさん、薬湯を!」
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「はい!」
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行商人を——落ち着かせた、後。
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誠は——アルフレートと——北の空を——見上げた。
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裂けた、空の、向こうには——今も——無数の、"何か"、が——静かに——浮かんでいる。
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「北が……全滅、か」
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アルフレートは——静かに、呟いた。
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「昨日の、村外れの、一撃……あれは……ほんの、"小手調べ"、だった、ということだな」
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誠は——ぞくり、とした。
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「本気を、出せば……一晩で……地方一つを……焼き尽くす……」
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「そういう……ことだ」
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その、絶望的な——敵の、力に。
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誠は——足が——震えた。
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「アルフレート様……あんな、ものと……本当に……戦えるんですか」
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アルフレートは——しばらく——沈黙した。
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「……正直に、言おう」
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アルフレートは——静かに、続けた。
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「俺、一人の、力では……勝ち目は、ない」
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誠は——息を、呑んだ。
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世界最強の、勇者ですら——勝ち目が、ないと、言う。
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それほどの——絶望的な、脅威。
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「だが……田中」
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アルフレートは——誠を、見た。
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「"一人では"、だ」
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「え……」
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「お前が、繋いだ……皆が、いる。俺、一人では、無理でも……皆で、力を、合わせれば……」
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アルフレートの、言葉に——誠は——はっと、した。
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「そう……ですね」
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誠は——静かに、頷いた。
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「一人じゃ、ない。皆が、いる」
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その時——空から——羽音が——聞こえた。
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「田中くーん!」
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聞き慣れた——声。
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「藤原さん!」
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龍の、姿の——藤原京香が——空から——舞い降りてきた。
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「無事か! 田中くん!」
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「藤原さん! 龍族の里は……!」
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藤原の、表情が——曇った。
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「……里は、なんとか、避難した。でも……あの、光で……北の、里の、半分は……焼かれてもうた」
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「そんな……」
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「でも……皆、生きとる。それだけは……不幸中の、幸いや」
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藤原は——裂けた、空を——見上げ——歯を、食いしばった。
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「田中くん。うち……あいつらを……許さへん」
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「里の、皆を……大勢の、人を……焼いた、あいつらを……絶対に……」
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誠は——藤原の、肩に——手を、置いた。
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「藤原さん……。一緒に、戦おう。皆で」
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「……うん」
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藤原は——静かに、頷いた。
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こうして——散り散りだった、仲間たちが——少しずつ——誠のもとへ——集まり始めていた。
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絶望的な——脅威を、前に。
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それでも——彼らは——"繋がろう"、としていた。
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「北が……全滅した。山も、村も、町も……一晩で、全部、灰に。逃げてきた、行商人が、教えてくれた。昨日の、村外れの、一撃は……ほんの、小手調べだったんだ。本気を出せば、一晩で、地方一つを、焼き尽くす。アルフレート様ですら、"一人では、勝ち目がない"、って。あんな、絶望的な、力。でも……アルフレート様は、こうも言った。"一人では、無理でも、皆で、力を合わせれば"、って。藤原さんも、来てくれた。里の半分を、焼かれても、"皆で戦う"、って。散り散りだった、皆が……少しずつ、集まってきてる。じいちゃん……怖い。でも……皆と、一緒なら……僕は、諦めない」
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窓の外——裂けた、空と——そこに、浮かぶ、無数の、脅威。
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まだこの時の誠は知らない。この、絶望的な、状況の中で——皆が、"繋がっていく"、ことこそが——やがて——反撃への、第一歩に、なることを。
そして——敵の、恐ろしい、力の、"正体"、が——まだ——何一つ、明らかになっていないことも——今はまだ、知る由もなかった。




