第135話「空が、割れた日」
その日は——いつもと——同じように、始まった。
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朝日が、昇り。村人たちが、目を、覚まし。誠が、店を、開ける。
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変わらない——穏やかな、朝。
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だが——胸の、ざわめきだけは——一晩中——収まらなかった。
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「田中さん……大丈夫ですか。顔色が、悪いですよ」
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「うん……。ただ……胸騒ぎが、ずっと……」
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昼を——過ぎた、頃。
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異変は——突然、訪れた。
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まず——空気が——変わった。
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穏やかだった、大気が——ぴりり、と——張り詰めた。
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「……なんだ?」
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村人たちも——手を、止め——空を、見上げた。
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そして——
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北の空が——
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——ピシリ。
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音を、立てて——"割れた"。
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「え……!?」
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誠は——目を、疑った。
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青い、空が——まるで——硝子のように。
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ひび割れ——そして——その、亀裂から——眩い、光が——溢れ出した。
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——ピシリ……ピシpiシ……ピシャアアアン!
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亀裂は——見る間に——空一面へと——広がっていった。
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そして——ついに——空が——真っ二つに——裂けた。
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「そんな……! 黒崎の……夢の、通りだ……!」
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誠は——愕然と、した。
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黒崎が——見た、悪い夢。空が、割れる——あの、光景が。
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今——現実の、ものと——なったのだ。
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裂けた——空の、向こう。
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そこには——
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北の空に、並んでいた——あの、無数の、"光の点"、が。
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今や——はっきりと——その、姿を——現していた。
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「あれは……!」
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それは——星でも——光でも、なかった。
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金属のように——鈍く、光る——無数の——"何か"。
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空一面を——覆い尽くすほどの——おびただしい、数。
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そして——その、一つ一つが——ゆっくりと——地上に、向かって——"照準"、を、定めていくのが——分かった。
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「まずい……!」
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その、瞬間——誠の、本能が——叫んだ。
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「みんな! 逃げて! 建物の中へ!」
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だが——遅かった。
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——ヒュゴォォォォォォッ!!!
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無数の、"何か"、の、一つから——凄まじい——"光の、柱"、が——放たれた。
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その、光は——大地に——降り注ぎ——
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——ズドオオオオオン!!!
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村の、外れの——丘が——一瞬で——消し飛んだ。
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「うわあああ!」
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村人たちが——悲鳴を、上げ——逃げ惑う。
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「な……なんだ、あれは!」
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「空から……光が……!」
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誠は——呆然と——その、光景を——見つめた。
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丘が、あった、場所には——今や——巨大な——焼け焦げた、クレーターが——残っていた。
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(あんな……一撃で……丘が……)
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誠の、背筋を——冷たい、ものが——駆け抜けた。
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「田中!」
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アルフレートが——駆けつけてきた。
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「アルフレート様! これは……!」
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「ついに……来たか」
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アルフレートは——裂けた、空を——見上げ——険しい、顔を、した。
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「あれが……お前の、感じていた、"胸騒ぎ"、の……正体だ」
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——ヒュゴォォォッ! ズドオオン!
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再び——どこか、遠くで——光の柱が——降り注ぐ、音が、響いた。
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「田中! ぼんやりしている、暇は、ない!」
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アルフレートが——叫んだ。
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「まずは……村人たちを……安全な、場所へ! 動けるか!」
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その、言葉に——誠は——はっと——我に、返った。
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「は……はい!」
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呆然と——している、場合では、なかった。
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目の前に——守るべき、人々が——いる。
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「みんな! 落ち着いて! こっちだ!」
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誠は——声を、張り上げた。
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「地下の、貯蔵庫へ! 頑丈な、場所に、隠れて!」
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パニックに、陥っていた、村人たちが——誠の、声に——少しずつ——動き始めた。
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「田中さんの、言う通りに、しろ!」
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「地下だ! 急げ!」
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誠は——次々と——人々を——安全な、場所へと——誘導していった。
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お年寄りの、手を、引き。子供を、抱え。
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こんな時でも——誠に、できるのは——"人々を、支える"、ことだった。
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「田中さん! ありがとう!」
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「まだ、外に、人が! 急いで!」
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空からは——なおも——時折——光の柱が——降り注ぐ。
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だが——幸い——まだ——村の、中心には——直撃していなかった。
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まるで——"様子見"、をしているかのように。
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村人たちを——ほぼ——避難させ終えた、頃。
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誠は——ようやく——一息、ついた。
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「はぁ……はぁ……。皆……無事、か……?」
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「よくやった、田中」
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アルフレートが——静かに、言った。
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「お前の、"落ち着かせる、力"、が……パニックを、防いだ」
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誠は——裂けた、空を——見上げた。
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空一面を、覆う——無数の——"何か"。
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そして——時折——降り注ぐ——破壊の、光。
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「アルフレート様……あれは……一体……」
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「分からん。だが……一つ、確かなことは……」
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アルフレートは——静かに、続けた。
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「これは……この、世界そのものへの……"攻撃"、だ」
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長い、長い——予兆の、日々。
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その、果てに——ついに——"それ"、は——始まったのだった。
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その夜——避難先の、地下で——誠は——祖父のノートを、開いた。
震える手で。
「空が……割れた。本当に、割れたんだ。黒崎の、夢の、通りに。裂けた空の、向こうに……無数の、"何か"、がいた。金属みたいに、光る……おびただしい数の。そこから、光の柱が、降ってきて……村外れの、丘が、一瞬で、消し飛んだ。あんな、威力……見たことない。僕は……ただ、村の皆を、避難させることしか、できなかった。でも……アルフレート様が、"その落ち着かせる力が、パニックを防いだ"、って。じいちゃん……ついに、始まった。何と、戦うのかも、分からない。でも……僕は、皆を、守る。僕に、できることを……するんだ」
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地下の、暗がりで——人々が——身を、寄せ合っている。
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その、頭上では——今も——世界を、裂く、光が——降り注いでいた。
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まだこの時の誠は知らない。この、"空を割った、脅威"、が——一体、何であるのかを。
そして——これが——長く、過酷な、戦いの——まだ——ほんの、始まりに、過ぎないことも——今はまだ、知る由もなかった。




