第131話「忍者の、影」
隣村の、長老を、訪ねてから——数日後。
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その夜——誠は——奇妙な、気配を——感じた。
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店の、戸締まりを、していた、時。
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「……誰か、いる?」
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ふと——背後に——人の、気配を、感じて——振り返った。
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だが——そこには——誰も、いなかった。
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「気のせい……か」
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だが——その後も——誠は——時折——視線のような、ものを——感じるように、なった。
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畑仕事の、最中。買い物の、途中。
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誰かが——どこかから——じっと——自分を、見ているような。
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「エリナさん。最近……誰かに、見られてる、気が、しない?」
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「見られてる? いえ……私は、特に」
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「そう……。僕の、気のせい、かな」
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その、正体が、分かったのは——ある夜のことだった。
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誠が——一人——北の空を、観察していた、時。
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「……そこに、誰か、いますね」
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誠は——闇に、向かって——静かに、声を、かけた。
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「隠れてないで……出てきて、ください」
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しばしの——沈黙。
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そして——闇の中から——音もなく——一つの、"影"、が——姿を、現した。
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黒い、装束に、身を、包んだ——忍びの、者だった。
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「……気づいておられたか」
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その、忍びは——静かに、そう、言った。
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「田中殿。我らの、気配を、察するとは……さすが、末広殿が……見込んだ、御方だ」
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「末広さんが……。あなたは……忍者の里の、方ですか」
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「いかにも」
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忍びは——静かに、頷いた。
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「頭領の、命により……田中殿を……密かに、見守っておりました」
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「見守る……? なぜ、僕を」
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忍びは——少し——躊躇った後——答えた。
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「我が、里に……古くから、伝わる……言い伝えが、ございます」
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「言い伝え……」
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「"天より……災い、来たらん"、と。そして……"その、災いに……抗う、鍵が、ある"、と」
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誠の、胸が——ざわり、と、した。
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「その、"鍵"、というのが……」
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「それが……"ガン"、と、呼ばれる、もの……なのです」
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「ガン……?」
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誠は——聞き慣れない、言葉に——首を、傾げた。
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「なんですか、それは。武器の、名前ですか」
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「それが……分からぬのです」
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忍びは——悔しそうに、続けた。
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「言い伝えには……"ガン、を、以て、抗え"、と、あるのみ。その、"ガン"、が……何なのか……我が、里でも……誰も、知らぬのです」
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「ガンを、以て、抗え……」
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誠は——その、言葉を——繰り返した。
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「なぜ……それを……僕に?」
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忍びは——静かに、答えた。
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「末広殿が……申されたのです。"何かあれば……田中誠を、頼れ"、と。"あの男なら……バラバラの、ものを……繋げられる"、と」
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誠は——はっと、した。
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またしても——"繋げる"、という、言葉。
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「あなた方も……何かに、備えて、いるんですね」
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「はい。頭領は……古い、言い伝えを……調べ直し……その、"ガン"、の、正体を……突き止めようと、しております」
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「末広殿も……そのために……里へ、戻られたのです」
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「末広さん……それで、忍者の里に……」
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ようやく——末広が、里へ、急いだ、理由が——分かった。
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「田中殿」
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忍びは——静かに、続けた。
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「もし……"その時"、が、来たら……我が、里も……全力で……力を、お貸しいたします」
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「末広殿の、恩人であり……そして……言い伝えの、"繋ぐ者"、かもしれぬ、御方のために」
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「繋ぐ者……」
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誠は——その、言葉を——噛み締めた。
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「僕が……本当に、そんな、大それた、存在なのか……分かりません」
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「でも……皆と、繋がることなら……できます。それだけは……約束します」
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忍びは——静かに——頭を、下げた。
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「その、お言葉……確かに、頭領に、伝えます」
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そして——再び——闇の中へと——音もなく、消えていった。
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一人、残された、誠は——夜空を——見上げた。
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「ガン……を、以て、抗え……」
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新たな、謎の、言葉が——胸に——刻まれた。
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「一体……"ガン"、って……何なんだ」
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「最近、誰かに、見られてる、気がしてたけど……正体は、忍者だった。末広さんの、里の人で、僕を、見守ってたらしい。忍者の里には、古い、言い伝えが、あって……"天より、災い、来たらん。その災いに、抗う鍵が、ある"、って。その鍵が……"ガン"、と、呼ばれるもの、らしい。でも……それが、何なのか……忍者の里でも、誰も、知らないって。武器の名前? 術? 全然、分からない。末広さんが、忍者の里に、戻ったのも……この"ガン"の、正体を、突き止めるためだった。そして……忍者さんも、僕を、"繋ぐ者かもしれない"、って。皆、同じことを、言う。じいちゃん……"ガン"、って、一体、何なんだろう。なんだか……頭から、離れないんだ」
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窓の外——二つの月と——北の空に、増えゆく、光。
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まだこの時の誠は知らない。この、"ガン"、という、謎の、言葉が——やがて——この、戦いの、行方を、左右する……はずの、"鍵"、として——皆を、悩ませ続けることを。
そして——その、正体が——実に……拍子抜けするような、ものであることも——今はまだ、知る由もなかった。




