表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
予兆

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
132/470

第130話「老人たちの、沈黙」

収穫祭が、終わって——数日後。



誠は——ある、噂を——耳にした。



「田中さん、聞きました? 隣村の、話」



「隣村の?」




エリナが——声を、潜めた。




「なんでも……村の、一番の、長老が……急に、"蔵を、整理し始めた"、って」





「蔵を、整理?」



「ええ。それも……"食料を、たくさん、蓄えろ"、"井戸の、水を、確保しておけ"、って……村中に、言って回ってるらしいんです」





誠は——眉を、寄せた。




「まるで……何かに、備えてる、みたいだ」



「そうなんです。でも……理由を、聞いても……何も、言わないらしくて」





誠は——考え込んだ。




「その、長老さん……何か、知ってるのかな」



「かもしれません。でも……口を、閉ざしてるみたいで」






気に、なった、誠は——その、隣村を——訪ねてみることにした。




村では——確かに——人々が——慌ただしく——食料や、水を——蓄えていた。




「あの……この村の、長老さんは、どちらに?」




誠が、尋ねると——村人は——一軒の、古い、家を——指し示した。





家の、縁側で——一人の——白髪の、老人が——静かに——空を、見上げていた。




北の、空を。




「あの……突然、すみません。僕は、田中誠と、言います」




老人は——ゆっくりと——誠を、見た。




その、目は——澄んでいて——しかし——深い、"何か"、を——湛えていた。





「……田中誠、か」




老人は——静かに、呟いた。




「あんたの、ことは……聞いておる。色んな、種族と……繋がっとる、男だ、と」




「え……僕のことを、ご存知なんですか」




「ああ」





誠は——恐る恐る——尋ねた。




「あの……ご長老は……なぜ、食料や、水を、蓄えているんですか。何か……ご存知、なんですか」




老人は——しばらく——沈黙した。




そして——静かに——北の空を、見上げた。





「わしはな……もう、随分と……長く、生きておる」




老人は——ゆっくりと、語り始めた。




「長く、生きておると……"世代を、超えて、伝わる、話"、というものを……いくつか、知っておる」





「世代を、超えて……」




「その、中に……一つ……"決して、口外してはならぬ"、と……先祖代々、戒められてきた、話が、ある」





誠の、胸が——ざわり、と、した。




「それは……"あの光"、のこと、ですか」




老人は——答えなかった。




ただ——静かに——北の空を——見つめ続けた。





「ご長老……教えて、ください。僕たちは……何と、戦うことに、なるんですか」




長い——沈黙が——流れた。




「……すまんな、田中誠」




老人は——静かに、そう、言った。




「わしには……言えん」





「なぜ、ですか」




「言えば……"それ"、が……現実に、なる、気が、するのだ」




老人の、声は——震えていた。




「先祖が……なぜ、この話を……"口外するな"、と、戒めたのか……今なら……分かる、気が、する」




「恐ろしくて……口に、出せんのだ」





誠は——言葉を——失った。




この——老人ですら——恐れている。




口に、出すことすら——できないほどに。





「ご長老……」




「だが……田中誠。一つだけ……言っておこう」




老人は——誠を——じっと、見た。




「もし……"それ"、が、来たら……」




「一人で、立ち向かうな。決して……一人では、勝てぬ」





誠は——はっと、した。




「皆と……力を、合わせろ。あんたが……繋いできた、その、"縁"、を……信じるのだ」




老人は——静かに、続けた。




「わしに……できるのは……村の、皆を……生き延びさせるために……蓄えを、するくらいだ」




「だが……あんたには……もっと……大きなことが……できるやも、しれん」





誠は——老人の、言葉を——静かに、受け止めた。




「ありがとう、ございます、ご長老」




「田中誠。……気を、つけてな」




老人は——再び——北の空を——見上げた。




その、横顔には——深い——"諦め"、にも、似た——静けさが——漂っていた。






隣村を、後にする、誠は——重い、気持ちを——抱えていた。




各地の——長老たち。




彼らは——何かを——知っている。




だが——それを——口に、出すことすら——できないほど——恐れている。




「一体……何が……来るんだ」




誠は——北の空を——見上げた。




その、答えは——依然——闇の中、だった。





その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「隣村の、長老を、訪ねた。食料や、水を、蓄えて、何かに、備えてた。長老は……"世代を超えて、伝わる話"、を、知ってるらしい。でも……"言えば、それが、現実になる気がする"、"恐ろしくて、口に出せない"、って。あの、長老ですら、恐れて、口に出せないなんて。一体、何が、来るんだ。でも……長老は、こうも、言った。"一人で立ち向かうな。皆と、力を合わせろ。お前が、繋いできた、縁を、信じろ"、って。各地の、長老が、皆、同じことを、言う。"繋がれ"、って。じいちゃん……敵の正体は、まだ、分からない。でも……"皆で、繋がって、立ち向かう"、それだけは……間違ってない気がするんだ」



窓の外——二つの月と——北の空に、増えゆく、光。



まだこの時の誠は知らない。各地の、長老たちが、恐れ、口を、つぐんできた、その、"話"、の、正体を。


そして——それを、口に、出せる、日が——恐ろしくも——もう、間近に、迫っていることも——今はまだ、知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ