第129話「村祭りの、片隅で」
北の空の、光が——増え続ける、中。
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それでも——村には——ささやかな、日常が——流れていた。
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その日は——毎年、恒例の——村の、収穫祭だった。
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「田中さん、お祭りの、準備、手伝ってくれて、ありがとうね」
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「いえいえ。こういう時こそ……皆で、楽しまないと」
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誠は——迷っていた。
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こんな、時に——祭りなど、していて、いいのだろうか、と。
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北の空には——不気味な、光が——増え続けている。
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だが——ゴラム爺さんが——こう、言った。
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「田中よ。こういう時、だからこそ……祭りは、やるんだ」
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「え?」
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「不安な、時ほど……人は……"当たり前の、日常"、を……大事にせにゃならん」
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ゴラム爺さんは——静かに、続けた。
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「祭りで、笑って……美味いもんを、食って……皆で、集まる。その、"当たり前"、が……人の、心を……強くするんだ」
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誠は——その、言葉に——深く、頷いた。
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「そう、ですね。じゃあ……精一杯、盛り上げましょう」
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祭りは——賑やかに、始まった。
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誠も——屋台を、出し——祖父直伝の、料理を——振る舞った。
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「田中さんの、料理、絶品だねぇ!」
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「ありがとうございます。たくさん、食べてください」
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村人たちの——笑い声。
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子供たちの——はしゃぐ、声。
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その、光景を、見て——誠は——改めて、思った。
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(こういう、"日常"、を……守りたい)
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(何が、来ても……この、笑顔を……守り抜きたい)
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祭りの、片隅で。
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誠は——ふと——一人の、少年が——羨ましそうに——屋台を、見ているのに、気づいた。
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ルカ、だった。
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「ルカ! 来てたのか」
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「あ……田中の、おじさん」
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ルカは——少し——恥ずかしそうに、うつむいた。
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「お祭り、楽しんでるか?」
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「うん……。でも……僕、お金が、なくて。見てるだけ」
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誠は——にっこりと、微笑んだ。
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「じゃあ……これ、食べな。今日は、僕の、おごりだ」
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誠は——ルカに——料理を、手渡した。
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「え……いいの?」
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「もちろん。お祭りは……皆で、楽しむものだからね」
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ルカは——おずおずと——料理を、口に、運んだ。
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「……美味しい」
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ルカの、顔が——ぱっと——輝いた。
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「すごく……美味しいよ、おじさん!」
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「はは。良かった。それも……"地味な"、料理、なんだけどね」
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ルカは——きょとん、とした。
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「地味なのに……こんなに、美味しいの?」
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「そうだよ。派手じゃなくても……丁寧に、作れば……人を、笑顔に、できるんだ」
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誠は——優しく、そう、言った。
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ルカは——料理を、頬張りながら——じっと——誠を、見つめた。
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「……おじさん。僕……やっぱり……おじさんの、こと……」
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言いかけて——ルカは——恥ずかしそうに——口を、つぐんだ。
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「なんだい?」
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「……ううん。なんでもない」
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だが——ルカの、目には——確かな——"憧れ"、の、色が——宿っていた。
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祭りは——夜遅くまで——続いた。
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その、間も——誠は——時折——北の空を——見上げた。
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増えゆく——光。
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だが——今夜だけは。
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誠は——目の前の——"日常の、笑顔"、を——大切にしようと——決めていた。
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「これが……僕の、守りたいもの、なんだ」
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誠は——賑わう、祭りを——見渡しながら——静かに、呟いた。
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「英雄みたいに……世界を、救うことは……できないかもしれない」
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「でも……この、村の、皆の……この、笑顔だけは……絶対に、守りたい」
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「今日は、村の、収穫祭だった。こんな時に、祭りなんて……と、思ったけど、ゴラム爺さんが、"不安な時ほど、当たり前の日常を、大事にしろ"、って。その通りだった。皆の、笑顔を見て……改めて、思った。僕が、守りたいのは、これなんだ、って。ルカも、来てた。料理を、あげたら、"美味しい"、って、すごく、喜んでくれた。あの子の、憧れるような、目……昔の、僕を、見てるみたいだ。北の空の、光は、今夜も、増えてる。でも……英雄みたいに、世界を救えなくても、この村の、皆の、笑顔だけは……絶対に、守りたい。じいちゃん……それが、僕の、戦う、理由なんだ」
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窓の外——二つの月と——北の空に、増えゆく、光。
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まだこの時の誠は知らない。この、"守りたい、笑顔"、のために、戦う、という、決意こそが——やがて、訪れる、過酷な、戦いの中で——彼を——支え続ける、力に、なることを。
そして——今夜、笑い合った、この、村の、日常が——もう、間もなく——大きく、揺らぐことになることも——今はまだ、知る由もなかった。




