第128話「アルフレートの、勘」
北の空の、光が——増え続ける——日々。
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その日——アルフレートが——いつもより——早い、時間に——店に、やってきた。
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「田中。少し……いいか」
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その、表情は——珍しく——硬かった。
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「アルフレート様? どうしたんですか」
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「……妙な、感覚が、あってな」
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アルフレートは——店の、椅子に——腰を、下ろした。
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「お前も、知っての通り……俺は、この世界で……数え切れないほどの、戦いを、くぐり抜けてきた」
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「はい」
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「その、経験から……"嫌な予感"、というものが……分かるように、なった」
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アルフレートは——静かに、続けた。
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「大きな、戦いの、前……決まって……こういう、"感覚"、が、するのだ」
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「その、感覚が……今、してるんですか」
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「ああ」
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アルフレートは——重々しく、頷いた。
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「それも……これまで、感じた、どの、戦いの、前よりも……遥かに……大きい」
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誠は——ぞくり、とした。
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「魔王討伐の、時よりも……ですか」
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「比べ物にならん」
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アルフレートは——即座に、答えた。
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「あの時とは……"規模"、が、違う。俺の、勘が……告げている。これは……この、世界そのものが……揺らぐような……そんな、戦いに、なる」
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誠は——言葉を——失った。
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世界最強と、謳われる、勇者・アルフレート。
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その、彼が——ここまで、深刻に、語るのを——誠は——初めて、見た。
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「アルフレート様……あなたでも……怖いんですか」
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誠が、尋ねると——アルフレートは——少し、間を、置いて——答えた。
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「……怖い、とは、少し、違う」
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「では?」
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「"備えねばならぬ"、という……焦りだ」
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アルフレートは——視線を、宙に、向けた。ステータス画面を、見る、仕草。
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「俺の、ステータスの、警告も……最近……変化した」
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「変化?」
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「"上空"、"接近"、だけでなく……新たに……"多数"、という、単語が……読めるように、なった」
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「多数……」
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誠は——北の空の——増えゆく、光を——思い出した。
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「あの、光の点……」
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「おそらく……それと、関係している」
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アルフレートは——静かに、続けた。
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「"多数"、の、"何か"、が……"上空"、から……"接近"、している。それが……俺の、ステータスが……告げていることだ」
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誠は——深く——息を、吸った。
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「アルフレート様。僕たちは……どう、備えれば、いいと、思いますか」
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アルフレートは——しばらく——考えた。
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「まず……一つ、確実に、言えることが、ある」
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「なんですか」
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「"数"、が、多い、ということは……俺、一人の、力では……対処、しきれん、ということだ」
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誠は——はっと、した。
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「これまで……大抵の、脅威は……俺が、一人で……なんとか、してきた」
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アルフレートは——静かに、続けた。
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「だが……今回は……違う。"多数"、を、相手にするなら……俺の、力だけでは……足りん」
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「必要なのは……"皆の、力"、だ」
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誠は——深く——頷いた。
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「僕が……ずっと、繋いできた……皆の、力……」
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「そうだ」
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アルフレートは——誠を、見た。
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「田中。皮肉な、ものだな。最強の、勇者たる、俺が……"一人では、足りん"、と……認めることに、なるとは」
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「そして……その、"足りない、部分"、を、埋めるのが……戦う力の、ない、お前が、繋いだ……"仲間たち"、だとはな」
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アルフレートは——静かに、微笑んだ。
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「田中。お前が……これまで、地道に、繋いできた、"繋がり"……それが……今度の、戦いで……何よりの、"力"、になる」
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「俺には……それが、分かる」
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誠は——アルフレートの、言葉に——胸が——熱くなった。
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「アルフレート様……」
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「案ずるな、田中。俺も……全力で、戦う。だが……お前の、"繋ぐ力"、が……きっと……この、戦いの……鍵に、なる」
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「今日、アルフレート様が、深刻な、顔で、来た。長年の、経験から……大きな戦いの前に、感じる、"嫌な予感"、が、今、してるって。しかも……魔王討伐の時よりも、遥かに、大きいって。あの、アルフレート様が、そこまで言うなんて。ステータスの警告も、"上空、接近"、に、"多数"、が、加わったらしい。北の空の、増える光と、関係してるんだ。アルフレート様は、"数が多いから、俺一人の力では、対処しきれない。必要なのは、皆の力だ"、って。そして……"お前が、繋いできた、繋がりが、この戦いの、鍵になる"、って。最強の、勇者に、そう言われて……なんだか、身が引き締まった。じいちゃん……僕の、繋ぐ力が……本当に、皆の、役に立つ、時が、来るのかもしれない」
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窓の外——二つの月と——北の空に、増えゆく、無数の、光。
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まだこの時の誠は知らない。アルフレートが、感じた、"これまでで、最大の、予感"、が——正しかったことを。
そして——その、戦いにおいて——本当に……戦う力の、ない、誠の、"繋ぐ力"、こそが——決定的な、鍵に、なることも——今はまだ、知る由もなかった。




