第125話「一色の、深夜の政務」
——ここは、ガルディア帝国の、帝都。深夜の、宮殿。
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皇帝・一色美奈子は——執務室で——一人、書類に、向かっていた。
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だが——その、内容は——通常の、政務では、なかった。
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机の上には——大量の——"レールガンの、設計図"、と——"配置図"、が——広げられていた。
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「射程が……まだ、足りない」
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一色は——設計図を、睨みながら——呟いた。
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「あの、光が……本当に、"上"、から、来るなら……もっと、遠くまで……高く……届かせないと……」
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彼女の、机の、傍らには——一枚の——古びた、手紙が、置かれていた。
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田中誠から、届いた——あの、手紙だった。
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「もし、一色さんが、何か、知っているなら……教えて、もらえませんか。僕、ちゃんと……受け止めますから」
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一色は——その、一節を——じっと、見つめた。
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「田中くん……」
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返事は——まだ——書けずにいた。
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いや——書けなかった、のだ。
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「私が……知っていること、全部……書いたら……」
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一色は——ため息を、ついた。
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「田中くんは……きっと……とんでもない、覚悟を……背負うことに、なる」
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一色は——誰よりも——早くから——"あの光"、の、存在に——気づいていた。
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彼女の、開発した——レールガンの、観測技術が——北の空の、異変を——他の、誰よりも、精密に——捉えていたのだ。
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そして——それが——尋常でない、脅威で、あることも。
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「私に、できるのは……せめて……皆が、戦える、"武器"、を……用意しておくこと」
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一色は——再び——設計図に、向かった。
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彼女が——今——最も、恐れているのは。
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自分の、作った、レールガンが——"あの光"、に——届かないかもしれない、という、こと、だった。
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「射程……威力……数……。全部……足りないかもしれない」
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一色は——唇を——噛んだ。
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「でも……やるしか、ない。私が……この帝国の、力の、全てを、注いで……できる限りの、備えを……」
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その時——ふと——聞き慣れた、声が、響いた。
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「精が、出るなあ、皇帝はん」
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「……神様」
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一色は——顔を、上げた。
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「また、麻雀ですか。今日は……本当に、それどころじゃ、ないんですけど」
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「いや……今日は、麻雀は、ええわ」
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神は——静かに、そう、言った。
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「あんた……無理、しとらんか」
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「無理……?」
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「一人で……何もかも、背負い込んで……」
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一色は——ふっと——自嘲気味に、笑った。
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「それが……皇帝の、務めですから」
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「私が……この、帝国を……いえ、この、世界を……守らないと……」
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神は——しばらく——一色を、見つめた。
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「皇帝はん。一つ、聞くけどな」
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「なんですか」
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「あんた……なんで……田中はんに……返事を、書かへんのや」
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一色の、手が——止まった。
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「……それは」
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「気遣うとるんやろ。あいつを……怖がらせたく、ない、って」
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一色は——静かに——頷いた。
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「田中くんは……戦う力の、ない、優しい、人です。あんな、恐ろしい、真実を……知らせたく、なくて」
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「そうか」
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神は——静かに、続けた。
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「でもな、皇帝はん。あんた……一つ、勘違いを、しとるで」
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「勘違い?」
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「田中はんは……あんたが、思うとるより……ずっと、"強い"、で」
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一色は——はっと、した。
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「あいつは……戦う力は、ない。でも……それを、補って、余りある……もっと、大きな、"力"、を、持っとる」
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神は——静かに、続けた。
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「あんたが……一人で、抱え込んどる、その、重荷……いっそ……あいつに……"繋がって"、みたら、どうや」
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「繋がって……」
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一色は——その、言葉を——繰り返した。
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「あんたは……"一人で、守らな、あかん"、思うとる。でも……ほんまは……そうやない」
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神は——優しく、そう、言った。
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「田中はんと……皆と……繋がれば……あんたは……もう、一人やないんや」
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一色は——手元の——田中の、手紙を——見つめた。
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「一人じゃ……ない……」
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「まあ……あとは……あんたの、決めることや」
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神は——そう言い残すと——静かに——気配を、消していった。
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一人、残された、一色は——長い間——田中の、手紙を——見つめていた。
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そして——ゆっくりと——ペンを、取った。
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「田中くん……」
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一色は——静かに——返事を、書き始めた。
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その夜——一色は——初めて——自分が、知っていること、全てを——誰かに、打ち明ける、決意を——固めたのだった。
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——一方、その頃。村の、誠は。
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その夜も——祖父のノートを、開いていた。
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「一色さんからの、返事……まだ、来ないな」
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誠は——少し——心配していた。
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「でも……きっと……一色さんも……色々、考えてくれてるんだろうな」
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「一色さんからの、返事が、まだ、来ない。忙しいのかな。それとも……やっぱり、僕を、気遣って、迷ってるのかな。北の空の、光は、今夜も、瞬いてる。少しずつ、増えてる、気がする。神様は、"繋がりが、お前の、一番の力"、だって、言った。だから……僕は、これからも、皆と、繋がっていこうと思う。一色さんとも……ちゃんと、繋がりたい。じいちゃん……早く、一色さんの、返事が、来るといいな」
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窓の外——二つの月と——北の空の、増えゆく、光。
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まだこの時の誠は知らない。今、まさに——遠く、離れた、帝都で——一色が——彼への、返事を——書き始めていることを。
そして——その、返事が——彼を——ついに——避けられない、"真実"、の、入り口へと——導くことになることも——今はまだ、知る由もなかった。




