第122話「二つの月が、赤い夜」
北の空の、光の点を——目撃してから——数日。
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その夜は——奇妙な、夜だった。
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「田中さん……なんだか、外が……変ですよ」
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夜半——エリナの、声に——誠は——目を、覚ました。
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「どうしたの?」
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「月が……月が、赤いんです」
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誠は——外に、出た。
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そして——空を、見上げ——息を、呑んだ。
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いつもは——白く、輝いている——二つの月。
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それが——今夜は——不気味な——赤い、色に——染まっていた。
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「これは……」
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血のように、赤い——二つの月。
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その、光が——村を——赤黒く——照らしていた。
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「田中さん……これ……何かの、前触れ、でしょうか」
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エリナが——不安げに——身を、寄せた。
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「分からない……。でも……」
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誠は——赤い、月を——見つめた。
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こんな、光景は——この、世界に、来てから——一度も——見たことが、なかった。
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村の、あちこちで——人々が——不安げに、外に、出てきていた。
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「なんだ、あの月は……」
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「不吉な……」
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「何か、悪いことが……起きるんじゃ……」
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ざわめきが——村中に——広がっていく。
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「田中さん!」
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ゴラム爺さんが——杖を、突いて——歩いてきた。
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「爺さん。この、赤い月……何か、知ってますか」
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ゴラム爺さんは——赤い、月を——じっと、見上げた。
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「……わしも……こんなのは……初めて、見る」
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長年、生きてきた、長老ですら——首を、振った。
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「だが……昔の、言い伝えに……あった、気がする」
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「言い伝え?」
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ゴラム爺さんは——記憶を——手繰り寄せるように——目を、細めた。
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「"月が……血の色に、染まる、時……」
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「"天の、理が……乱れる、印……"」
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「天の、理が……乱れる……」
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誠は——その、言葉を——繰り返した。
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「どういう、意味ですか」
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「さあ……そこまでは……わしにも、分からん」
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ゴラム爺さんは——静かに、首を、振った。
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「ただ……良い、印では……ないだろうな」
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その時——誠は——ふと——北の空を、見た。
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赤い月の、光の中でも——あの——星ならぬ、光の点は——変わらず——瞬いていた。
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いや——気のせいか——その、数が——前より——少し——増えているように、見えた。
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「増えてる……」
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誠は——ぞくり、とした。
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「田中さん……大丈夫、でしょうか」
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エリナが——不安げに——尋ねた。
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誠は——赤い月を——そして——北の空の、光を——見つめた。
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そして——静かに——エリナの、手を、握った。
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「大丈夫だよ、エリナさん」
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誠は——努めて——穏やかに、そう、言った。
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「何が、起きても……僕たちは、一緒だ。それに……皆も、いる」
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「田中さん……」
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「だから……怖がらなくて、いい。今は……ゆっくり、休もう」
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エリナは——誠の、手を——握り返した。
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「……はい」
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だが——その夜。
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誠は——なかなか——寝付けなかった。
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赤い月の、光が——窓から——差し込んでくる。
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その、赤い、光の中で——誠は——ずっと——考えていた。
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(天の、理が……乱れる……)
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(北の空の……増える、光……)
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(黒崎の……空が、割れる、夢……)
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(全部……繋がってる)
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そして——誠は——静かに——決意した。
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(明日……皆に、呼びかけよう)
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(一人一人が……知ってることを……持ち寄って……皆で、備えよう)
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(もう……ばらばらに……不安がってる、時じゃ、ない)
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赤い月の、夜は——静かに——更けていった。
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「今夜、二つの月が、赤く、染まった。血の色みたいに。こんなの、初めて見た。ゴラム爺さんが、"月が血の色に染まる時、天の理が乱れる印"、っていう、言い伝えを、教えてくれた。良い印じゃ、ないって。北の空の、光の点も……前より、増えてる気がする。もう……はっきり、分かった。何かが、来る。それも、すぐそこまで。だから……決めた。明日、皆に、呼びかけよう。一人一人が、知ってることを、持ち寄って……皆で、備えよう。ばらばらに、不安がってる時じゃ、ない。じいちゃん……"繋がって、生きろ"、って、じいちゃんの言葉。僕、今こそ、それを、やるよ」
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窓の外——赤く、染まった、二つの月。
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そして——北の、空の、低いところで——数を、増していく——星ならぬ、光の点。
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まだこの時の誠は知らない。この、"赤い月"、が——災いの、始まりが——もう、間近に、迫っていることを、告げる——最後の、"警告"、だったことを。
そして——彼が、決意した、"皆で、備える"、という、行動こそが——やがて——この、世界を、救う、"繋がり"、の——本当の、始まりに、なることも——今はまだ、知る由もなかった。




