第121話「藤原の、里の異変」
宮田から、地図を、預かった——数日後。
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北の、龍族の里から——再び——藤原の、手紙が、届いた。
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「藤原さんからだ。……前より、随分、厚い」
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急いで——書かれたのだろう。
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いつもの——快活な、筆致とは、違い——文字が——少し、乱れていた。
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「田中くん、急いで、書いとる。里が……大変なことに、なっとるんや」
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誠の、胸が——ざわり、と、した。
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「前に、書いた、年寄りたちの、"ざわめき"……あれが、もう、ただごとやなくなってきた」
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「年寄りの、龍たちが……次々と、"里を、離れろ"、"南へ、逃げろ"、って……言い出したんや」
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「里を、離れろ……」
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誠は——読み進めた。
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「うちが、"なんでや"、って、聞いたら……一番の、長老が……初めて、教えてくれた」
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「"北の空に……見たことの、ない、光が……増え始めた"、って」
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誠は——息を、呑んだ。
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北の、空に——見たことのない、光が——増え始めた。
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「うちも、空を、見上げてみた。そしたら……確かに、遠くの、北の空に……小さな、光の点が……いくつも、瞬いとった」
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「星やと、思うやろ? でも……違うんや。星なら、動かへん。でも、あの光は……少しずつ……こっちに、近づいてきとる、気がするんや」
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「近づいてきてる……」
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誠は——手紙を、握る、手に——力が、こもった。
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「長老たちは……"あれが、満ちた時……災いが、始まる"、って、言うとる」
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「意味は……はっきり、教えてくれへん。でも……ものすごく、深刻な、顔を、しとった」
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「うちは……里の、皆を、守らなあかん。せやから……しばらく、里を、離れられへん」
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「でも……田中くん。あんただけには、知らせておきたかった」
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「北の空を……気ぃつけて、見といてな。何か、あったら……うち、絶対、飛んでいくから」
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誠は——手紙を——静かに、置いた。
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「北の空に……光の点が……増え始めて……近づいてきてる……」
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これまでの、予兆が——一つの、"形"、を——取り始めていた。
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宮田の、地図——北の大地に、落ちた、"何か"。
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そして——藤原の、手紙——北の空に、増える、"光の点"。
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「空に……何かが……集まってきてる……」
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その、夜。
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誠は——藤原の、手紙を、握りしめたまま——外に、出た。
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そして——北の、空を——じっと、見上げた。
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いつもの——二つの月と——無数の、星々。
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「……あれ?」
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誠は——目を、凝らした。
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北の、空の——ずっと、低い、あたり。
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そこに——本来なら——星など、ないはずの、場所に。
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小さな——光の、点が——いくつか——瞬いていた。
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「あれが……藤原さんの、言ってた……」
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誠は——ぞくり、とした。
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その、光の点は——確かに——星とは——どこか、違っていた。
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瞬き方が——不規則で。
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そして——気のせいか——ほんの、わずかに——動いているように——見えた。
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「本当だ……。あれは……星じゃ、ない」
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誠は——長い間——その、光を、見つめていた。
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胸の、奥の、ざわめきが——静かに——確信へと——変わっていく。
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「何かが……来る」
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もう——それは——疑いようが、なかった。
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「でも……僕は……一人じゃ、ない」
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誠は——夜空を、見上げたまま——静かに、呟いた。
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「藤原さんも、竜崎も、黒崎も、皆瀬さんも、皆がいる。だから……何が、来ても……」
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誠は——ぐっと——拳を、握った。
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そして——静かに——家の中へ、戻っていった。
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「藤原さんから、また、手紙が来た。龍族の里が、大変なことに、なってる。長老たちが、"里を離れろ、南へ逃げろ"、って。北の空に、見たことのない光が、増え始めて……こっちに、近づいてきてるらしい。手紙を読んで、僕も、外に出て、北の空を見た。そうしたら……本当に、あった。星じゃない、小さな、光の点が、いくつも。不規則に、瞬いて、わずかに、動いてる。もう……間違いない。何かが、来る。空から。でも……僕は、一人じゃない。皆が、いる。じいちゃん……怖くない、って言ったら、嘘になる。でも……僕は、逃げないよ」
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窓の外——二つの月と、無数の、星々。
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そして——北の、空の、低いところに——星ならぬ、小さな、光の点が——いくつも——瞬いていた。
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まだこの時の誠は知らない。あの、北の空の、"光の点"、が——やがて——空一面を——覆い尽くすほどに——増えていくことを。
そして——それが、"満ちた"、時——黒崎の、夢に、見た、"空が割れる、日"、が——訪れることも——今はまだ、知る由もなかった。




