第119話「森川の、ざわめき」
桜庭の、手紙に——考えを、巡らせていた、頃。
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誠のもとに——今度は——虫人族の、長・森川淳から——使いが、来た。
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「田中殿に……森川様が、お会いしたいと」
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その、使いは——手のひらほどの——小さな、羽虫の、姿を、していた。
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虫人族——森川が、長を、務める、種族である。
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「森川が? 珍しいな。すぐ、行くよ」
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誠は——虫人族の、暮らす——深い、森へと、向かった。
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森の、奥——無数の、虫人たちが、暮らす、集落で。
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森川淳は——誠を——待っていた。
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かつては——気弱な、同級生だった、森川。
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だが——今は——虫人族を、束ねる——落ち着いた、長の、風格を、備えていた。
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「田中……急に、呼び出して、悪いね」
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「いや、いいんだ。何か、あったの?」
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森川は——少し——難しい、顔を、した。
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「うん……。実は、僕の、種族……虫人族のことで、相談が、あって」
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「虫人族の?」
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「うん。……最近、皆の、様子が……おかしいんだ」
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森川は——集落を——見渡した。
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無数の、虫人たちが——せわしなく——動き回っている。
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だが——その、動きには——どこか——落ち着きが、なかった。
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「虫人族はね……もともと、"群れ"、の、感覚が、鋭いんだ」
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森川は——静かに、説明した。
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「一匹、一匹は、小さくて、弱い。でも……群れ全体で……"何か"、を、感じ取る、力が、ある」
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「天候の、変化とか……災害の、予兆とか……そういうものを……人間よりも、ずっと、早く……」
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「それで……最近は……?」
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誠が、尋ねると——森川は——静かに、答えた。
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「皆が……"落ち着かない"、んだ。ずっと……そわそわ、して……巣を、深く、掘ろうとしたり……食料を、蓄えようとしたり……」
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「まるで……何か、"大きな災い"、から……身を、守ろうと、してるみたいに」
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誠は——ぞくり、とした。
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鳥が、逃げたのと——同じだ。
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獣や、虫は——人間より、早く——何かを、感じ取る。
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「森川……それって……」
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「うん」
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森川は——静かに、頷いた。
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「僕にも……はっきりとは、分からない。でも……虫人族が、これだけ、ざわつくのは……ただごとじゃ、ないんだ」
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「何か……大きなことが……近づいてる」
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森川は——ふと——誠を、見た。
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「田中。僕、君に……一つ、頼みたいことが、あるんだ」
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「なに?」
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「もし……本当に、何か、来た時……」
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森川は——真剣な、顔で、続けた。
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「虫人族は……一匹、一匹は、弱い。でも……群れで、動けば……偵察や、伝令の、役に、立てる」
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「その時は……どうか……僕らを……皆の、"繋がり"、の、一部に……入れてほしいんだ」
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誠は——その、言葉に——胸が、温かくなった。
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「もちろんだよ、森川」
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誠は——力強く、頷いた。
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「一匹、一匹が、弱くても……皆で、繋がれば……きっと、大きな力になる。僕は……そう、思うんだ」
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森川は——ほっと——したように、微笑んだ。
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「ありがとう、田中。……君に、そう言って、もらえると、心強いよ」
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集落を、後にする、誠は——考えていた。
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虫人族の、ざわめき。
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これで——龍族、スライム族、鬼族、忍者、そして——虫人族。
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多くの、種族が——同じように——"何か"、を——感じ取り始めている。
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「桜庭さんの、言う通りだ」
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誠は——呟いた。
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「バラバラの、種族が……同じ、"予感"、に……ざわついてる」
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そして——ふと——森川の、言葉が——蘇った。
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「一匹、一匹は、弱くても……群れで、動けば……」
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その、言葉が——なぜか——誠の、胸に——強く、残った。
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「今日、森川に、呼ばれて、虫人族の、集落に、行った。虫人族が、最近、ずっと、そわそわして……巣を、深く掘ったり、食料を、蓄えたり……災いから、身を守ろうと、してるみたいだ、って。虫や、獣は……人間より、早く、"何か"、を、感じ取る。鳥が、逃げたのと、同じだ。森川は……"もし何か来たら、僕らを、皆の繋がりの一部に、入れてほしい"、って、言ってくれた。"一匹一匹は弱くても、群れで動けば、大きな力になる"、って。なんだか……その言葉が、胸に、残る。じいちゃん……弱いものが、繋がって、大きな力になる……それって、僕にも、できることなのかな」
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窓の外、二つの月が——静かに、輝いていた。
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まだこの時の誠は知らない。虫人族の、"群れの力"、が——やがて、訪れる、戦いの中で——偵察と、伝令の、要として——大きな、役割を、果たすことを。
そして——森川の、言った、"一匹一匹は弱くても、群れで動けば"、という、言葉こそが——この、物語の、核心に——静かに、触れていることも——今はまだ、知る由もなかった。




