第117話「黒崎の、悪い夢」
竜崎を、訪ねた——数日後。
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誠は——次に——黒崎の、暮らす、塔を、訪ねた。
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闇魔法の、天才——黒崎蓮司。中二病を、こじらせ、"カイエン"、を、名乗る、あの、同級生である。
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薄暗い、塔の、最上階。
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「……来たか、田中誠」
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黒い、ローブを、纏った、黒崎が——低い、声で、出迎えた。
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「黒崎、久しぶり。相変わらず、暗いところに、住んでるね」
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「闇こそ、我が、住処。……で、何用だ」
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誠は——いつものように——黒崎の、中二病に、付き合いながら——最近の、出来事を、話した。
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黒崎は——腕を、組み——じっと、聞いていた。
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話を、聞き終えると——黒崎は——少し——沈黙した。
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「……田中」
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「うん?」
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「実はな……」
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黒崎の、声が——いつもの、芝居がかった、調子とは——少し、違っていた。
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「最近……妙な、"夢"、を、見る」
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「夢?」
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「ああ」
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黒崎は——窓の外の——薄暗い、空を、見た。
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「闇魔法の、使い手はな……時折……"世界の、澱"、のような、ものを……感じ取ることが、ある」
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「世界の、澱……」
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「言い換えれば……大きな、"歪み"、の、予兆、だ」
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黒崎は——静かに、続けた。
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「その、"夢"、の中で……俺は……いつも……空を、見上げている」
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「空を?」
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「そして……その、空が……"割れる"、のだ」
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誠の、胸が——ざわり、と、した。
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「空が……割れる……?」
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「ああ。真っ二つに……天が、裂けて……そこから……無数の、"何か"、が……降ってくる」
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黒崎は——珍しく——真剣な、顔で、続けた。
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「そして……大地が……焼ける。全てが……業火に、包まれる」
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誠は——ぞくり、とした。
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「それは……ただの、悪い夢……なのかな」
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「分からん」
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黒崎は——静かに、首を、振った。
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「だが……同じ夢を……何度も、見る。それも……日を、追うごとに……鮮明に、なっていく」
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「こんなことは……初めてだ」
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黒崎は——ローブの、下で——拳を、握った。
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「俺の、闇魔法の、勘が……告げている。これは……ただの、夢では、ないと」
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「何か……大きな、"災厄"、が……近づいている」
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誠は——黒崎の、言葉を——静かに、受け止めた。
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空が、割れる。無数の、何かが、降ってくる。大地が、焼ける。
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それは——これまでの、予兆——北の、光、アルフレートの、"上空・接近"、帝国の、"空に向けたレールガン"——と——不気味なほど、重なった。
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「黒崎……」
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「案ずるな、とは……言わん」
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黒崎は——静かに、そう、言った。
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「これは……おそらく……本物の、"災厄"、だ。生半可な、覚悟では……乗り越えられまい」
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「でも……」
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黒崎は——ふっ、と——口の端を、上げた。
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「我が、闇の、力……こういう、時のために、あるのだ」
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「もし……その、"災厄"、が、来た時は……この、カイエンの、闇魔法が……貴様らの、力に、なろう」
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誠は——少し——微笑んだ。
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いつもの、中二病めいた、口調。
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だが——その、奥に——確かな、"覚悟"、が——滲んでいた。
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「ありがとう、黒崎。頼りにしてるよ」
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「フッ……当然だ」
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塔を、後にする、誠は——考え込んでいた。
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黒崎の、見る、"夢"。空が、割れ——何かが、降り——大地が、焼ける。
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「あれが……本当に、起きるとしたら……」
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誠は——ぶるり、と——身震いした。
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だが——不思議と——以前ほどの、孤独な、恐怖は——なかった。
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竜崎が、いる。黒崎が、いる。皆が、いる。
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「一人じゃ、ない。だから……大丈夫だ」
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誠は——そう、自分に、言い聞かせた。
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「今日、黒崎に、会ってきた。黒崎は……最近、妙な、夢を、見るらしい。空が、割れて……無数の、何かが、降ってきて……大地が、焼ける、夢。同じ夢を、何度も、それも、日を追うごとに、鮮明に……。闇魔法の、勘が、"ただの夢じゃない"、って、告げてるって。北の光も、アルフレート様の警告も、帝国の動きも……全部、"空から"、だ。黒崎の夢と、重なる。何か、本当に、大きなことが……起きようとしてるのかもしれない。でも……竜崎も、黒崎も、"力になる"、って、言ってくれた。じいちゃん……僕は、もう、一人じゃないよ」
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窓の外、二つの月が——静かに、輝いていた。
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まだこの時の誠は知らない。黒崎が、夢に、見た、"空が、割れる"、光景が——やがて——現実の、ものと、なることを。
そして——その、日が——刻一刻と——近づいていることも——今はまだ、知る由もなかった。




