第116話「竜崎の、古傷」
祖父の、言葉に——励まされた——数日後。
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「一人で、抱え込まない」、と、決めた、誠は——今度は——自分から——仲間たちを、訪ねて、回ることにした。
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まず、向かったのは——傭兵団「守り竜団」の、拠点だった。
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「よう、田中! 久しぶりじゃないか!」
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団長の、竜崎が——豪快に、出迎えた。
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「竜崎、久しぶり。急に、ごめんね」
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「何、言ってるんだ。お前なら、いつでも、大歓迎さ」
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誠は——竜崎に——最近の、出来事を、話した。
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胸騒ぎ。北の、光。帝国の、動き。そして——皆が、何かに、備えているらしいこと。
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「一人で、抱え込むのは、やめようと、思って。だから……竜崎にも、聞いてもらいたくて」
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竜崎は——真剣な、顔で——話を、聞いていた。
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「……なるほどな」
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「守り竜団は……各地を、回ってるだろう? 何か、変わったこと、なかった?」
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竜崎は——腕を、組んだ。
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「そうだな……。実は、俺たちも……北の方の、依頼が……最近、めっきり、減ってな」
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「減った?」
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「ああ。北の、村や、町から……人が、南へ、移り始めてる。魔物退治の、依頼どころじゃ、ない、って、雰囲気だ」
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誠は——眉を、寄せた。
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「北の、人たちが……逃げてる……」
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「はっきりとは、分からんがな。だが……何かを、感じ取って、避難してる、ようにも、見える」
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竜崎は——少し——遠い目を、した。
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「なあ、田中」
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「うん?」
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「お前……不安、なんだよな」
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「……うん」
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「その、気持ち……俺には、よく、分かる」
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竜崎は——静かに、そう、言った。
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「昔……俺が、部下たちを……疫病で、失った、時のこと……覚えてるか」
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誠は——静かに、頷いた。
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かつて——竜崎の、傭兵団は——疫病に、襲われ——多くの、仲間を、失った。
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その時——誠が、薬草の、知識で——残された、者たちを、救ったのだ。
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「あの時の、俺は……本当に、無力だった」
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竜崎は——拳を、握った。
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「剣なら……どんな、魔物でも、斬れる。強さには……自信が、あった」
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「でも……疫病には……剣なんて……何の、役にも、立たなかった」
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竜崎の、声が——少し——震えた。
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「仲間が……一人、また一人と……倒れていくのを……ただ、見てることしか……できなかった」
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「あの、無力感は……今でも……忘れられない」
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「竜崎……」
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「でもな、田中」
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竜崎は——顔を、上げ——誠を、見た。
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「あの時……俺を、救ってくれたのは……お前の……"地味な、薬草の、知識"、だった」
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「剣でも、力でも、なかった。お前の、その……人を、支える、力が……俺たちを、救ったんだ」
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誠は——静かに——竜崎の、言葉を、聞いていた。
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「だから、田中。お前は……不安がる、必要、ないんだ」
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竜崎は——力強く、そう、言った。
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「もし……本当に、何か、来たとしても……お前には、お前にしか、できないことが、ある」
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「人を、支え……人を、繋ぐ……その、力が、な」
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誠は——胸が——温かくなった。
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「ありがとう、竜崎」
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「それに……何が、来ようと……守り竜団が、いる。俺たちは……人々を、守るのが、仕事だからな」
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竜崎は——にっと、笑った。
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「その時は……お前と……また、一緒に、戦わせてくれ」
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「うん。頼りにしてるよ」
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守り竜団の、拠点を、後にする、誠は——少し——足取りが、軽くなっていた。
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竜崎に、話を、聞いてもらい——そして——励まされた。
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「一人で、抱え込まないって……こういうことなんだな」
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誠は——そう、実感した。
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「今日、竜崎に、会いに行った。守り竜団も、北の方の、様子が、おかしいって、感じてた。北の人たちが、南へ、逃げ始めてるらしい。竜崎は……昔、疫病で、部下を、失った時の、無力感を、話してくれた。そして……"あの時、お前の、薬草の知識が、救ってくれた。お前には、お前にしか、できないことがある"、って。一人で、抱え込むのを、やめて……皆に、話を、聞いてもらうようにしたら……なんだか、心が、軽くなった。じいちゃん……"繋がって、生きろ"、って、こういうことなんだね」
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窓の外、二つの月が——静かに、輝いていた。
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まだこの時の誠は知らない。北から、南へ、逃げ始めた、人々の、流れが——やがて——大きな、"避難の、波"、へと、変わっていくことを。
そして——その、時——守り竜団が——人々を、守る、大切な、役割を、担うことになることも——今はまだ、知る由もなかった。




