第115話「祖父のノート、余白」
ルカと、出会った、その夜。
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誠は——いつものように——祖父の、ノートを、開いた。
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書き込みを、終え——ぱらぱらと——ページを、めくっていた、その、時。
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「……あれ?」
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これまで——気づかなかった、ページが——目に、留まった。
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ノートの——ずっと、後ろの方。
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普段は——めくらない——最後の、あたり。
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そこに——祖父の、字で——何か——書き込みが、あった。
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いや——正確には——書きかけて——消した、ような——薄い、跡だった。
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「じいちゃんの、字だ……」
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誠は——目を、凝らした。
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かすれた、その、文字は——読み取りにくかった。
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だが——ところどころ——かろうじて——読めた。
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「……誠が、いつか……遠い、ところへ……」
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「……その時は……一人で、抱え込むな……」
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「……人は……繋がって、生きて……」
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そこで——文字は——途切れていた。
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「じいちゃん……」
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誠は——その、余白を——じっと、見つめた。
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いつ——書いたのだろう。
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祖父が——生きていた、頃。
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まだ——誠が——異世界へ、来る、ずっと、前。
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(じいちゃんは……僕が、いつか、遠くへ、行くことを……知ってたのかな)
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そんな、はずは、ない。
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祖父が——異世界転移など——知る、はずも、ない。
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だが——それでも。
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この、書きかけの、言葉は——まるで——今の、誠に——語りかけているようだった。
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「"一人で、抱え込むな"……」
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「"人は……繋がって、生きて……"」
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誠は——その、言葉を——繰り返した。
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胸の、奥に——ずっと——わだかまっていた、不安。
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北で、何かが、起きようとしている。皆が、何かを、知っている。でも、自分だけが、取り残されている。
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その、孤独と、不安を——誠は——確かに——"一人で、抱え込んで"、いた。
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「そうか……」
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誠は——静かに、呟いた。
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「一人で、抱え込んでも……仕方ないんだ」
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考えてみれば——皆が、黙っているのは——誠を、気遣ってのこと。
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なら——誠も——一人で、悩まず——皆と、繋がって、いけばいい。
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不安なら——不安だと——皆に、言えばいい。
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「じいちゃん……ありがとう」
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誠は——ノートの、余白を——そっと、撫でた。
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「まさか……こんな時に……じいちゃんに……励まされるなんて」
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翌朝——誠は——少し——気持ちが、軽くなっていた。
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「田中さん、なんだか、今日は、すっきりした、顔ですね」
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エリナが——そう、言った。
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「うん。昨日、じいちゃんの、ノートの、余白に……書きかけの、言葉を、見つけてね」
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誠は——ノートを——エリナに、見せた。
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「"一人で、抱え込むな"……"人は、繋がって、生きて"……」
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エリナは——その、かすれた、文字を——読んだ。
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「素敵な、言葉ですね」
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「うん。おじいちゃんが……いつ、書いたのか、分からないけど……なんだか、今の、僕に……ぴったりで」
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誠は——静かに、続けた。
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「僕、ずっと……不安を、一人で、抱え込んでた。皆が、教えてくれない、って……勝手に、寂しがって」
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「でも……そうじゃ、ないんだよね。僕も……皆と、繋がって……一緒に、備えれば、いいんだ」
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エリナは——優しく、微笑んだ。
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「そうですね。田中さんは……一人じゃ、ないんですから」
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「うん」
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誠は——窓の外の——北の、空を、見た。
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まだ——何が、来るのかは——分からない。
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だが——もう——一人で、怯えている、必要は、なかった。
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「何が、来ても……皆と、一緒なら……きっと、大丈夫だ」
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誠は——そう、呟いた。
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その、言葉には——不思議と——確かな、"芯"、が、あった。
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「昨日、ノートの、後ろの方に……じいちゃんの、書きかけの、言葉を、見つけた。"一人で、抱え込むな"、"人は、繋がって、生きて"……。いつ、書いたのか、分からないけど……今の、僕に、ぴったりだった。僕、ずっと、不安を、一人で、抱えて……皆が、教えてくれない、って、勝手に、寂しがってた。でも……僕も、皆と、繋がって……一緒に、備えれば、いいんだ。じいちゃん……何十年も、経ってから……こうして、僕を、励ましてくれるなんて。じいちゃんは、やっぱり、すごいよ。僕、もう……一人で、怯えたり、しないから」
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窓の外、二つの月が——静かに、輝いていた。
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まだこの時の誠は知らない。祖父が、遺した、"繋がって、生きろ"、という、言葉が——やがて、訪れる、戦いの中で——文字通り——この、世界を、救う、鍵に、なっていくことを。
そして——その、言葉を——一番、体現するのが——誠自身に、なることも——今はまだ、知る由もなかった。




