第111話「皆瀬の、口ごもり」
一色への、手紙を、出してから——数日。
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返事を——待つ間も——誠の、胸騒ぎは——収まらなかった。
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「じっとしてても……落ち着かないな」
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誠は——思い立って——近くの、霧霊スライム族の、集落を——訪ねることにした。
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皆瀬なら——何か、知っているかもしれない。あるいは——ただ、話を、聞いてもらうだけでも——気が、紛れるかもしれない。
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「田中くん! 久しぶり!」
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スライムの、姿の、皆瀬が——いつものように——嬉しそうに、揺れながら、出迎えた。
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「皆瀬さん、突然、すみません」
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「ううん、大歓迎だよ。どうしたの、こんな、急に」
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誠は——最近の、出来事を——皆瀬に、話した。
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胸騒ぎ。龍族の、ざわめき。逃げる、鳥。北の、光。帝国の、動き。
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話を、聞くうちに——皆瀬の、揺れが——少しずつ——小さくなっていった。
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「……そう、なんだ」
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皆瀬の、声は——どこか——沈んでいた。
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「皆瀬さん」
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誠は——静かに、尋ねた。
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「皆さんの、間でも……何か、変わったこと、ありませんか」
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皆瀬の、揺れが——ぴたり、と——止まった。
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「……変わったこと、って?」
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「例えば……何か、"備えている"、とか。古い、言い伝えが……ざわついてる、とか」
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しばしの——沈黙。
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誠は——その、沈黙の、長さに——胸が、締め付けられた。
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「……あのね、田中くん」
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皆瀬は——ゆっくりと——揺れた。
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「私……」
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言いかけて——皆瀬は——また——口を、つぐんだ。
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「皆瀬さん?」
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「……ごめんね」
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皆瀬の、声は——震えていた。
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「私……あなたに……言えないことが……あるの」
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誠は——静かに——皆瀬を、見つめた。
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「言えないこと……」
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「うん……。まだ……はっきり、しないことだし……それに……」
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皆瀬は——苦しそうに、続けた。
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「あなたを……いたずらに、怖がらせたく、ないの」
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誠は——ぐっ、と——胸が、詰まった。
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やはり——皆瀬も——何かを、知っている。
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そして——誠を、気遣って——黙っている。
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「皆瀬さん」
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誠は——優しく——語りかけた。
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「無理に……話さなくても、いいです」
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「田中くん……」
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「でも……一つだけ、教えてください」
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誠は——静かに、尋ねた。
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「それは……僕が……"怖がる"、ような……そんな、ことなんですか」
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皆瀬は——長い、沈黙の、後。
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「……分からないの」
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そう——答えた。
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「本当に……分からないの。私たちも……ただ、古い、言い伝えが……ざわついてるだけで……それが、何なのか……"鏡"、が、何なのか……誰にも、分からないの」
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「鏡……?」
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誠は——聞き慣れない、言葉に——首を、傾げた。
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「あ……」
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皆瀬は——しまった、というように——揺れた。
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「今のは……忘れて。まだ……意味が、分からない、言葉、だから」
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誠は——それ以上、追及は、しなかった。
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だが——"鏡"、という、その、言葉は——なぜか——誠の、胸に——引っかかった。
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「田中くん……ごめんね。何も、はっきり、言えなくて」
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「いえ……。話を、聞いてくれて、ありがとうございます」
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誠は——静かに、微笑んだ。
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「皆瀬さんが……僕を、気遣ってくれてるのは……ちゃんと、分かりますから」
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「田中くん……」
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皆瀬は——少し——泣きそうな、声で、揺れた。
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「一つだけ……約束する」
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「約束?」
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「もし……本当に、何か、"来た"、時は……私たち、絶対に……あなたの、味方だから」
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「あなたが……"身体"、をくれた、恩……絶対に、忘れないから」
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誠は——その、言葉に——胸が、温かくなった。
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「ありがとう、皆瀬さん」
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集落を、後にする——誠の、背中を。
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集合意識の、奥から——無数の、"視線"、のような、ものが——じっと——見送っていた。
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「皆瀬さんのところに、行った。やっぱり……皆瀬さんも、何かを、知っていて……でも、僕を、気遣って、黙っていた。"あなたを、怖がらせたくない"、って。皆、優しいんだ。でも……その、優しい、沈黙が……かえって、辛い。一つだけ、気になったのは……皆瀬さんが、つい、口にした、"鏡"、っていう、言葉。何のことか、分からないけど……なんだか、頭から、離れない。じいちゃん……僕は、皆に、心配ばかり、かけてる。でも……いつか、僕にも、できることが……あるといいんだけど」
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窓の外、二つの月が——静かに、輝いていた。
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まだこの時の誠は知らない。皆瀬が、つい、漏らした、"鏡"、という、言葉が——やがて——この、世界の、運命を、左右する、鍵の、一つに、なることを。
そして——その、意味を、解き明かすのが——ほかでもない、誠自身に、なることも——今はまだ、知る由もなかった。




