第110話「帝国の、静かな動き」
北の、光の、噂を、聞いてから——数日後。
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村に——南から、一人の、行商人が——立ち寄った。
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「田中さんの、店は、こちらですかい」
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「はい。何か、お探しですか」
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「いやね……薬草を、少し、分けて、ほしくて。旅の、常備薬に」
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誠は——薬草を、見繕いながら——世間話を、交わした。
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「お客さんは……どちらから?」
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「南の……ガルディア帝国の、方から、来ましたよ」
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「帝国から」
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誠は——手を、止めた。
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「帝国は……お変わり、ないですか。皇帝の、一色さんは、お元気かな」
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「ああ、皇帝陛下は……お元気の、ようですがね」
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行商人は——少し、声を、潜めた。
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「なんだか……最近、帝国が……妙な、動きを、してるんですよ」
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「妙な、動き?」
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「ええ。急に……軍備を、増やし始めましてね」
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行商人は——続けた。
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「レールガン、っていう……あの、恐ろしい、兵器。あれを……ものすごい、数、作り始めてる、って、話でしてね」
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「レールガンを……たくさん」
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誠は——眉を、寄せた。
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「どこかと……戦争でも、するんですか」
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「それが……そういう、様子でも、ないんですよ」
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行商人は——首を、傾げた。
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「他国を、攻める、でもなく……国境を、固める、でもなく……」
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「じゃあ……何のために」
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「それがね……妙なんですよ」
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行商人は——声を——さらに、潜めた。
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「作った、レールガンを……みんな、"空"、に、向けて、据えてる、っていうんです」
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「空に……?」
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誠の、胸が——ざわり、と、した。
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「まるで……"空から、何か、来る"、のを……待ち構えてるみたいだ、って」
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誠は——言葉を、失った。
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「まあ……ただの、噂ですけどね」
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行商人は——薬草を、受け取ると——そそくさと、去っていった。
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「なんだか……最近、物騒な、話ばかりで。あっしも、早く、故郷に、帰りたいですよ」
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一人、残された、誠は——しばらく——考え込んだ。
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帝国が——レールガンを——大量に、作り。
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それを——"空"、に、向けて、据えている。
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「空から……何か、来る……」
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誠は——先日の、アルフレートの、言葉を——思い出した。
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ステータス画面の——「上空」「接近」という、警告。
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「一色さん……」
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誠は——確信した。
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一色は——何かを——知っている。
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そして——その、"何か"、に、備えて——レールガンを——空に、向けて、据えているのだ。
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(でも……なんで、僕には、教えてくれないんだろう)
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(いや……)
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誠は——思い直した。
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(一色さんも……皆瀬さんや、末広さんみたいに……僕を、気遣って、黙ってるのかもしれない)
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その日の、夜。
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誠は——一色に——手紙を、書くことにした。
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「一色さん、お久しぶりです。突然、すみません。実は……最近、僕の、周りで、妙なことが、続いていて。北の、山が、光ったとか……帝国が、レールガンを、空に、向けて、据えているとか。僕、なんだか、胸騒ぎが、して……。もし、一色さんが、何か、知っているなら……教えて、もらえませんか。僕、ちゃんと……受け止めますから」
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誠は——そう、綴りながら——ふと、手を、止めた。
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(でも……もし、一色さんが……僕を、気遣って、黙ってるんだとしたら)
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(この、手紙……困らせて、しまうかもしれないな)
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それでも——誠は——手紙を、出すことにした。
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知らないまま——ただ、不安に、怯えているのは——耐えられなかった。
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「南から来た、行商人が、教えてくれた。帝国が……レールガンを、大量に、作って……それを、全部、"空"、に、向けて、据えているらしい。"空から、何か、来る"、のを、待ち構えてるみたいだ、って。アルフレート様の、警告と……同じだ。"上空"、"接近"。一色さんは……絶対、何かを、知ってる。だから……手紙を、書いた。教えて、ほしい、って。僕を、気遣って、黙ってるのかもしれないけど……ただ、怯えて、待ってるのは……もう、嫌なんだ。じいちゃん……僕は、知りたい。何が、起きようとしてるのかを」
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窓の外、二つの月が——静かに、輝いていた。
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まだこの時の誠は知らない。一色が——なぜ、レールガンを、空に、向けているのか。
そして——その、手紙への、返事が——彼を——ついに、"真実"、の、入り口へと——導くことになるのかも——今はまだ、知る由もなかった。




