第11話「結婚式」
プロポーズから三ヶ月後、田中誠とエリナの結婚式が、村の広場で執り行われることになった。
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「誠、緊張してるのか?」
朝、身支度を手伝いに来たゴラムが、誠の様子を見て笑った。
「そりゃ、しますよ」
「らしくねぇな。研ぎ物の時は、あんなに落ち着いてるくせに」
「これは、勝手が違います」
誠は、村の仕立て屋に頼んで作ってもらった簡素な礼服に袖を通しながら、深く息を吐いた。
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村の結婚式は、日本のそれとは随分違った。派手な儀式はなく、村長の前で誓いの言葉を交わし、その後は村人総出の宴になる、というのが習わしだった。
「誓いの言葉、ちゃんと覚えたか?」
「一応は」
「一応じゃ困るんだがな……」
村長が苦笑しながら、誠の肩を叩いた。
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広場には、村中の人々が集まっていた。ゴラムをはじめ、誠の店を手伝ってくれている若者たち、タナカソウ茶の噂を聞きつけて足繁く通うようになった常連客、そして誠が研ぎ物を頼まれた数え切れないほどの村人たち。
「誠、頑張れよー!」
「エリナちゃん、綺麗だぞー!」
村人たちの声援の中、誠は緊張した面持ちで、村長の前に立った。
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やがて、白い簡素な衣装に身を包んだエリナが、父親に付き添われて現れた。
誠は、思わず息を呑んだ。
いつもの働き者の姿とは違う、しかし変わらない、エリナらしい柔らかな笑顔がそこにあった。
「誠さん」
「エリナさん……綺麗です」
「ありがとうございます」
エリナは少し照れたように笑った。
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村長の前で、二人は向き合った。
「田中誠。お前は、エリナを生涯支え、共に歩むことを誓うか」
「誓います」
「エリナ。お前は、誠を生涯支え、共に歩むことを誓うか」
「誓います」
村長は満足げに頷いた。
「では、この二人を、夫婦と認める」
その瞬間、広場は歓声に包まれた。
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「おめでとう、誠! エリナちゃん!」
「今日は飲むぞー!」
村人たちが一斉に祝いの言葉をかけ、宴が始まった。焚き火が焚かれ、楽器を持ち寄った村人たちが演奏を始める。誠とエリナは、その輪の中心で、村人たちの祝福を受け続けた。
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「誠さん」
宴の合間、少し落ち着いた頃、エリナが誠にそっと寄り添った。
「これから、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
誠は、エリナの手を握った。硬く、しかし温かい、働き者の手だった。
「僕は、まだこの世界で分からないことばかりです。でも、エリナさんと一緒なら、きっと大丈夫だと思います」
「私も、同じ気持ちです」
二つの月が浮かぶ夜空の下、二人は静かに、しかし確かな絆を結んだ。
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「よし、次は新居の話だな」
宴も落ち着いた頃、ゴラムが誠に近づいてきた。
「新居、ですか」
「お前の今の店、狭いだろう。夫婦二人で暮らすには」
「たしかに、そうですね……」
「村長とも話したんだが、川沿いの空き地、お前に譲ってもいいって話が出てる。店と住まいを兼ねた、もう少し広い建物を建てられるぞ」
誠は驚いた。
「そんな、いいんですか」
「お前がこの村にもたらしたものを考えりゃ、安いもんだ」
村長も横から頷いた。
「誠くん。お前さんは、この村にとって、もう欠かせない存在になっとる。遠慮せんでいい」
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その夜、新婚の二人は、誠のこれまでの店で、静かな時間を過ごした。
「本当に、大きな店を建てることになるんですね」
エリナが、少し感慨深げに言った。
「はい。想像もしていませんでした」
誠は、祖父のノートを取り出し、そっと開いた。
「じいちゃん。俺、結婚したよ。そして今度は、ちゃんとした店を持つことになりそうだ」
エリナは、その様子を優しく見守っていた。
「田中さんのお祖父さんは、きっと喜んでいると思います」
「そうだと、いいんですけど」
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窓の外、二つの月が、いつもより優しく輝いているように見えた。
まだこの時の二人は知らない。この新しい店が、やがて「田中商会」として、王国中にその名を知られるようになることを。
そして、その歩みの先に、幾多の戦争、疫病、天災が待ち受けていることも——今はまだ、知る由もなかった。




