第106話「龍族からの手紙」
胸騒ぎを、抱えたまま——数日が、過ぎた、ある日のこと。
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「田中さん、お手紙が、届いてますよ」
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エリナが——一通の、手紙を、手渡した。
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「北の……龍族の里から、みたいです」
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「藤原さんからかな」
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誠は——手紙を、開いた。
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「田中くん、元気にしとるか。うちは、相変わらず、里で、姉御やっとるで」
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いつもの——藤原の、快活な、筆致。
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誠は——ふっと、微笑んだ。
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だが——手紙を、読み進めるうちに——その、表情が——少しずつ、曇っていった。
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「そういえば……最近、里の、年寄り連中が、なんや、そわそわ、しとってな」
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「"そろそろ、来る"、とか、"備えなあかん"、とか……ぶつぶつ、言うとるんや」
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「何のことか、聞いても、"お前は、まだ、知らんでええ"、の、一点張りでな。ちょっと、気味が、悪いわ」
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「……備える?」
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誠は——その、一節を——じっと、見つめた。
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「何を……備えるんだろう」
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手紙は——こう、続いていた。
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「まあ、年寄りの、言うことやし……ボケてるだけかもしれんけどな」
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「でも……なんや、里全体が、ピリピリしとって……うちも、ちょっと、落ち着かへんのや」
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「田中くんの、村は、平和か? 何か、変わったこと、あったら……教えてな」
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誠は——手紙を、置いた。
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「……」
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胸の、奥の、ざわめきが——一段——強くなった、気が、した。
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「田中さん、どうかしましたか」
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エリナが——心配そうに、尋ねた。
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「藤原さんが……龍族の里の、年寄りたちが、"そろそろ来る"、"備えろ"、って、言ってるって……」
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「来る? 何がですか」
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「それが……分からないんだ。藤原さんも、聞いても、教えて、もらえないって」
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エリナは——少し、考え込んだ。
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「龍族の、年寄りって……随分、長生き、なんですよね」
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「うん。何百年も、生きてる人も、いるらしい」
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「なら……何か、昔の、言い伝えでも、思い出したんじゃ、ないですか。長く、生きてると、色々、知ってるでしょうし」
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「言い伝え……か」
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誠は——その、言葉を、繰り返した。
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「そう、かもしれないね。でも……」
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誠は——窓の外を、見た。
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「なんだか……僕の、この、胸騒ぎと……繋がってる気が、するんだ」
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「田中さんの、胸騒ぎと?」
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「うん。ただの、偶然かもしれないけど……」
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誠は——静かに、続けた。
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「僕が、そわそわし始めた、時期と……藤原さんの、里が、ざわつき始めた、時期が……なんだか、重なってる、気がして」
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エリナは——少し、不安げな、顔を、した。
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「考えすぎ、ですよ、きっと」
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「そう……だといいんだけど」
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その日——誠は——藤原に、返事を、書いた。
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「藤原さん、手紙、ありがとう。里の、皆さんが、無事なら、いいんだけど。実は、僕も、最近、妙な、胸騒ぎがして……なんだか、落ち着かないんだ。気のせいだと、いいんだけど。何か、分かったら、また、教えてね」
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誠は——そう、綴りながら——ふと、思った。
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(藤原さんの、里の、"備える"、っていうのと……僕の、胸騒ぎ)
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(もし……本当に、繋がってるんだとしたら……)
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(一体……何が、"来る"、っていうんだろう)
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答えは——出なかった。
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ただ——胸の、ざわめきだけが——静かに——強くなっていく。
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「藤原さんから、手紙が、来た。龍族の里の、年寄りたちが、"そろそろ来る"、"備えろ"、って、言ってるらしい。でも、何が、来るのかは、分からない。エリナさんは、"昔の言い伝えでも思い出したんじゃないか"、って、言う。そうかもしれない。でも……僕の、胸騒ぎと、時期が、重なってる気がして……なんだか、嫌な、予感がするんだ。じいちゃん……僕の、考えすぎ、だといいんだけど」
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窓の外、二つの月が——静かに、輝いていた。
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まだこの時の誠は知らない。北の、龍族の里の、"ざわめき"、が——彼の、胸騒ぎと——確かに、繋がっていることを。
そして——それが——遠く、離れた、他の、種族たちにも——同じように、広がり始めていることも——今はまだ、知る由もなかった。




