第104話「麻雀卓の、世間話」
——ここは、ガルディア帝国の、帝都。壮麗な、宮殿の、一室。
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その夜、皇帝・一色美奈子は——政務を、終え、自室で、束の間の、休息を、取っていた。
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「今日も、疲れたな……」
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小柄な、少女の、姿の、皇帝は——深く、椅子に、腰掛け——ため息を、ついた。
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その、時だった。
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「よう、皇帝はん。ちょっと、ええか」
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聞き慣れた——あの、関西弁の、声が、響いた。
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「……また、あなたですか」
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一色は——少し、呆れたように、天を、仰いだ。
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「今度は、なんの、用ですか。私、これでも、忙しいんですけど」
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「まあまあ、そう、言わんと。一局、付き合うてぇな」
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気づけば——一色の、目の前に、いつの間にか、麻雀卓が、出現していた。
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「また、これですか……」
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「あんた、筋は、ええからな。ワシの、数少ない、打ち相手や」
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一色は——深く、ため息を、つきながらも——結局、その、卓に、着いた。
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この、神との、麻雀は——もはや、彼女の、数少ない、"息抜き"、の、一つに、なっていた。
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「ほな、始めよか」
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牌を、混ぜる、音が、静かな、部屋に、響く。
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「にしても、皇帝はん。あんた、最近、顔色、悪いで。ちゃんと、寝とるか」
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「誰の、せいだと、思ってるんですか。あなたが、いつも、私が、忙しい時に、来るからでしょう」
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「はっはっは、そら、すまんな」
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しばらく——他愛のない、雑談を、交えながら、麻雀は、進んでいった。
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「リーチ、や」
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「……また、ですか。あなた、すぐ、リーチ、かけますよね」
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「せっかちなんや、ワシ」
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そんな、やり取りの、合間。
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神は——牌を、静かに、切りながら——ふと、こう、呟いた。
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「なあ、皇帝はん。あんた……ええもん、作ったなあ」
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「ええもん?」
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「あの……レールガン、いうやつや」
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一色の、手が——少し、止まった。
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「……それが、どうかしましたか」
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「いやな……なんとなく、や」
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神は——曖昧に、そう、続けた。
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「あれはな……あんたが、思うとる以上に……大事な、もんに、なるかもしれへんで」
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「どういう、意味ですか」
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一色は——怪訝そうに、尋ねた。
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「さあなあ。ワシにも……よう、分からん」
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神は——はぐらかすように、笑った。
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「ただ……大事に、しときや。それだけや」
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一色は——その、言葉に——少し、引っかかりを、覚えた。
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「あなた……今日は、なんだか、変ですね」
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「変か?」
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「いつもより……妙に、意味深です」
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神は——少しの、間——黙り込んだ。
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「……気の、せいや」
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そして——また、いつもの、軽い、調子に、戻った。
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「それより、皇帝はん。あんた、さっきから、上の空やで。ほれ、ツモや。ワシの、勝ちやな」
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「え……あ」
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一色が、卓を、見ると——確かに、神が、和了っていた。
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「こんな、話の、最中に……」
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「勝負は、勝負や」
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「ほな、ワシは、そろそろ、行くわ」
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神は——そう、告げた。
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「あ、皇帝はん」
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「なんですか」
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神は——最後に——ふと、こう、付け加えた。
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「あんた……ずっと、一人で、気ぃ張って……生きてきたやろ」
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一色は——はっと、した。
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「レールガン、一つで……この、帝国の、頂点まで、上り詰めて……誰にも、頼れんと、な」
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「……それが、どうかしましたか」
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「いや……ええんや」
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神の、声は——珍しく——少し、優しかった。
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「ただ……いつか、あんたが、"一人やない"、って、思える、日が……来たら、ええな、思うてな」
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「その時は……あんたの、その、"繋がり"、を……大事に、しぃや」
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そう言い残すと——神の、気配は、麻雀卓と共に、静かに、消えていった。
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一人、残された、一色は——しばらく、その場で、動けずにいた。
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「レールガンが……大事なもんに、なる……?」
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「一人じゃ、ない、って……思える日……?」
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神の、言葉の、意味は——分からなかった。
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だが——いつもの、いいかげんな、様子とは、どこか、違う——その、声の、"色"、が——一色の、胸に——かすかな、ざわめきを、残した。
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「あの、神様……一体、何を、言いたかったの」
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一色は——窓の外に、輝く、二つの月を——見上げた。
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そういえば——以前も——あの、神は——妙に、意味深なことを、口にした、ことが、あった。
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「あんたの、作った、あの、レールガン……実は、あんたの、オリジナルとちゃうかも、しれへんで」
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あの、時も——意味は、分からなかった。
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「あの、神様の、言うことは……いつも、掴みどころが、ないわね」
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一色は——小さく、ため息を、ついた。
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「まあ……気にしても、仕方ない、か」
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こうして——皇帝・一色美奈子もまた——神の、意味深な、"世間話"、を、胸の、片隅に、留めたまま——いつもの、多忙な、日常へと、戻っていった。
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その、言葉が——何を、告げていたのか。
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それを——彼女が、知るのは——まだ、ずっと、先の、ことだった。
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——一方、その頃。
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村の、誠は——そんな、神と、皇帝の、やり取りなど、全く、知らずに。
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「ふぁ……今日は、よく、晴れてるなぁ」
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いつものように、のんびりと、畑の、手入れを、していた。
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「タナカソウも、順調に、育ってる。今年は、豊作かな」
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「今日は、いい天気で、畑仕事が、捗った。タナカソウも、順調だ。最近、平和で、穏やかな、日々が、続いている。旅も、いいけど、やっぱり、こうして、村で、地道に、暮らすのが、僕には、一番、合っているのかもしれない。じいちゃん、この、平和が、ずっと、続きますように」
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窓の外、二つの月が、静かに、輝いていた。
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まだこの時の誠は知らない。皇帝・一色のもとに——神が、意味深な、言葉を、残していったことを。
そして——忍者、スライム、鬼族、そして、皇帝——この、世界の、各地で——それぞれが、掴みどころのない、"予感"、や、"言い伝え"、の、ざわめきを、感じ取り始めていることも——今はまだ、知る由もなかった。




