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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
落ちてた落語家

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第102話「聞こえて、しまうもの」

——ここは、霧の、立ち込める、湿地帯。霧霊スライム族の、集落。



誠たちが、去ってから、幾日かが、過ぎた頃のことだった。



集落の、奥——集合意識の、最も、深い、部分で。



「……妙な、ことだ」



長老格の、スライムが——静かに、"思考"、していた。




「あの、落語家が、遺していった、"音"……」




末広が、この地で、披露していった、幾つもの、噺。




目が、見えず——音で、全てを、感じ取る、霧霊スライム族は——その、噺の、"調子"、や、"間"、の、奥に——何か、"別のもの"、が、潜んでいることを——聞き取っていた。




「あの、噺の、"裏"、に……何か、が、織り込まれておった」




長老は——それが、何なのかまでは——分からなかった。




だが——その、"音の、裏"、の、響きが——なぜか——集合意識の、奥に、眠る、古い、"記憶"、を——揺り起こした。





霧霊スライム族——いや、その、前身である、細菌族には——目に見えぬ、極小の、存在であった、頃から、代々、受け継がれてきた、一つの、言い伝えが、あった。




"身体記憶(しんたいきおく)"、と、呼ばれる、ものだった。





長老は——集合意識の、奥底に、眠る、その、古い、記憶を——静かに、呼び起こした。




「我ら、極小の、民よ——」



「いつの日か……天より、"災い"、降る、時、来たらん——」



「その、災い……あらゆる、生命を……脅かさん——」




長老は——静かに、"呟いた"。




「あの、落語家の、音が……この、言い伝えを、なぜ……揺り起こすのか」





言い伝えには——続きが、あった。




「されど……その、災いを、退ける、術、我らに、あり——」



「己の、身体と……対に、なる、"鏡"、を、用意せよ——」



「さすれば……災い、取り除かれん——」




「己の、身体と……対に、なる、鏡……」




長老は——その、言葉を、繰り返した。




「"鏡"、とは……何を、意味するのか」




長らく——誰も、その、意味を——解けずにいた。




目の、ない、彼らにとって——"鏡"、という、ものは——そもそも、馴染みの、薄い、概念だった。





「己の、身体と……対に、なる、もの……」




長老は——自分の、透明な、身体を——"感じた"。




「我らが……"身体"、を、得たのは……あの、田中という、人間の、力によるもの……」





かつて——細菌族として、極小の、存在であった、彼ら。




それが——田中誠の、あの、不思議な、力によって——確かな、"身体"、を、持つ、スライムへと、変わった。




「もしや……この、言い伝えは……我らが、"身体"、を、得た、今だからこそ……意味を、持つのか」




だが——それも——確かな、ことは——分からなかった。





「皆の、者よ」




長老は——集合意識全体に、呼びかけた。




「我らに、伝わる、"身体記憶"、の、言い伝え。今……なぜか、それが、我らの、内で……ざわめいておる」




「あの、落語家の、遺した、"音"、が……何かを……告げようと、しているのやも、しれぬ」





集合意識全体が——静かに、しかし、確かに、ざわめいた。




「その、"鏡"、の、正体……心に、留めておくのだ」




長老は——静かに、そう、命じた。




「いつか……その、意味が、明らかになる、時が……来るやも、しれぬ」





こうして——霧霊スライム族もまた——忍者の里と、時を、同じくして——古い、言い伝えの、"ざわめき"、を、感じ取り——静かに、その、意味を、探り始めた。




だが——"鏡"、とは、何なのか。なぜ、今、それが、ざわめくのか。




その、答えは——まだ、誰にも——見えなかった。





——そして、この頃、村では。




そんな、種族たちの、動きなど、全く、知らずに——誠は。




「藤原さんから、手紙が、来た」




北の、龍族の里に、いる、藤原京香からの、便りを、読んでいた。




「田中くん、元気にしとるか。里の、皆も、随分、大きくなったで。ウランの、運搬、また、頼むかもしれへんけど、その時は、よろしくな」




「藤原さんも、元気そうで、良かった」




誠は——そう、微笑んだ。





その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「藤原さんから、手紙が、来た。龍族の里は、順調らしい。皆、それぞれの、場所で、元気に、やっている。こういう、穏やかな、便りが、届くのが、一番、嬉しい。じいちゃん、平和が、続くといいな」



窓の外、二つの月が、静かに、輝いていた。



まだこの時の誠は知らない。霧霊スライム族に、伝わる——"身体記憶"、という、古い、言い伝えを。


そして——その、言い伝えが、告げる——"鏡"、という、謎の、言葉が——なぜか、今、静かに、ざわめき始めていることも——今はまだ、知る由もなかった。

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