049
シノちゃんの母ねこは、遠い遠いお空の上へと旅立ったあとでした。
だけど、シノちゃんは、ちっともさみしくありませんでした。
だってシノちゃんには、お母さまをさがす旅の道すがら、すてきなお友だちがいっぱいできたからです。
めでたし、めでたし。
「フー。とうとう完成したわね、ミドリ」
「そうね。時間をかけて作っただけあって、とっても良い物が出来たわね」
「えぇ。お母様にも、見せてあげたかったなぁ……」
スケッチブックを閉じ、それを両腕をクロスして胸の前に抱えたシノが伏し目がちに言った。すると、ミドリは、シノを励ますように努めて明るい声を出して言う。
「きっと、お嬢様のお母様も、お空の上から見守ってると思うわ」
「そうかしら? そうだと良いんだけど」
「えぇ。良い子にしてるかしらって、いつも気に掛けてるに決まってるわ。だから、元気を出して」
「……そうよ。お母様を心配させないためにも、わたし、頑張らなきゃね」
「そうそう。その調子よ」
シノの心の中に前向きな気持ちが芽生えた、その時である。
突如、トランク世界がゴロゴロと雷鳴のような地響きを立て、天井や壁がボロボロと崩れ始めた。
「み、ミドリ。どうなってるの?」
「わたしにも、分からないわ。でも、離れちゃダメよ」
ミドリは、これだけは無くすまいとスケッチブックを抱え込んでいるシノを抱きしめ、震動が収まるのを待った。
しかし、揺れは収まるどころか激しさを増し、ついにふたりが座っている真下に亀裂が走る。
「ヒャッ!」
「キャー!」
そしてふたりはヒシと抱き合ったまま、亀裂の下に続く、果てしない暗闇へと姿を消した。
*
同じ頃、特にすることも無いまま、給湯室で待機しているアオイとエリは、といえば。
「胸騒ぎがする」
「食べ過ぎたのね。ジアスターゼでも飲んだら?」
「だから、年寄り扱いするなって。気になるから、ちょっと様子を見てくるよ」
「さようなら」
「そこは、行ってらっしゃいにしてよ。縁起でも無いから」
「ごめんなさい。つい、本音が出てしまったわ。いってらっしゃい」
「行ってきま~す」
当てつけのように辛辣なコメントを返すエリに適当に見送られ、アオイは屋敷の異変を探りに廊下へ出た。




