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その後、アオイ、エリ、ミドリの仲裁もあり、ひとまず、藤村父娘は仲直りした。
ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、藤村邸に、再び平井がやってきた。
「たびたび悪いね。年末に家に居ると、方々から親戚がやってきて、おちおち提琴の手入れもできないくらい忙しいんだ。――それで良いのか?」
平井と藤村は、応接間で、前と同じようにトランプに興じている。
「君の家は、子沢山だからね。八人だったか?」
「いや、この秋に九人目が生まれた。今度は女だが、夜泣きがうるさくて敵わない。しばらく、兄貴には精の付く物を控えてもらいたいね」
「姪の面倒くらい、看てやりたまえ。可愛い盛りは、あっという間だぞ? ――これしか無いんだ」
「当主になれるわけでもないのに、ご機嫌取りなんて馬鹿らしいじゃないか」
「君、資産家の当主になれば、何でも出来ると思ってるのかい? むしろ逆だよ。資産が奪われないかと心配になるし、責任は重いし、変な恨みは買うしで、三日もすれば誰でも嫌になる。銀の匙を持って生まれたら、それを無くさないようにする義務も同時に生じるのさ」
「えっ? ダモクレスの剣の話かい? ――それじゃあ、お先に上がろうかな。ホイッと」
「違う違う。イギリスの諺だよ。向こうでは、裕福な家庭の子供は、洗礼式で銀の匙を与えられ、貧乏な子供は、瀬戸物や木の匙を与えられたそうだ。ただ、肉体の寿命が尽きたあとも銀の匙を持ったままでは、ラクダが針の穴を抜けるより天国へ行くのが難しいらしいけどね」
「あっ、そう。所変われば品変わる、だな」
「そういうこと。――また負けたか。今度は勝てると思ったんだがなぁ」
藤村は、ローテーブルの上の札をかき集め、束にしてシャッフルし始めたとき、この前の一件を思い出す。
「あぁ、そうだ。このあいだ、君の予言通り、奴らが来たよ」
「おぉ、来たか。『赤毛のアン』は無事だったかい?」
「原題がグリーンゲイブルズだから、問題無かったよ。それにしても、連中は礼儀を知らないね。手土産に大和煮の缶詰でも持って来れば、こちらも気分良く案内するというのに」
「ハハッ。あいつらが正客として来たら、それはそれで傑作だな。――いつまで切ってるつもりだ?」
平井に指摘された藤村は、シャッフルする手を止め、一枚ずつ交互に配り始めた。
*
戯言を弄しているのは、何も応接間だけではない。
「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」
「いよいよボケはじめたわね、アオイくん」
「老人扱いするなよ。さっき緑茶と饅頭を持って行ったら、ターナーの松がどうのこうの、首吊り理論がシカジカと議論してるのが聞こえてきたもんだからさ。名作だと思わないかい?」
「そうね。いっそ、ヒトデナシの国へでも行って来たら?」
「ある意味、この屋敷内はヒトデナシの国だよ」
アオイとエリが、給湯室で息の合った漫才を繰り広げているとき、シノとミドリは子供部屋に居たのだが、その話は、また明日にしよう。




