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「んもぅ。どうしてミドリと結婚してくれないのよ。お父様の分からず屋!」
特高が東京へ戻った頃、シノ、ミドリ、藤村は、書斎で話し合っていた。が、議論はまとまらないまま、シノはミドリ宛ての手紙を握りしめ、書斎を飛び出してしまった。
「あのっ。追いかけて、連れ戻して来ましょうか?」
「いいや、結構だよ。そのうち、エリかアオイくんに見つかるだろう。それより、君に見せておきたい物があるんだ。そこを閉めてもらえるかな」
「はい」
言われた通りに、ミドリは書斎のドアを閉める。
そのあいだに、藤村はベストの右ポケットから小さな鍵を取り出し、机の一番上の引き出しを開錠する。そして、その引き出しから別の鍵を取り出し、机の鍵はベストに戻す。引き出しの鍵は、先端がアルファベットのエフのような形をしている。
「これから見せる物は、若いお嬢さんには少々刺激が強いから、気を強く持つように」
「あっ、はい!」
書棚の前に立つと、藤村はベストの左ポケットから、また別の小さな鍵を取り出し、書棚のガラス扉を開ける。そして、最下段にある百科事典を引き抜き、その奥にある鍵穴に、先端がエフの鍵を差し込む。
すると、カチッという小さな金属音が聞こえ、ロックが外れたことが分かる。
「開ける前に訊いておこう。この鍵穴には気付いてたかい?」
「はい。でも、わたしの鍵では開きませんでした」
「そうか。ここに置いておく本は、ラテン語かサンスクリット語の本にしておいた方が良いかもしれないね」
そう言いながら、藤村は、鍵があった棚を奥へと押し込み、横の棚を、その棚があったところへスライドさせる。
すると、スライドした棚の奥に別の書棚が現れる。そこには、下段に何語かサッパリ分からない文字が背表紙に箔押しされた書籍が、そして上段には、ゴム栓をした試験管が並んでいる。
藤村は、立ち並んだ試験管のうちのひとつを手に取ると、それをミドリに見せて訊ねる。
「これ、何だと思う?」
「葡萄酒ですか? それにしては、濁ってますけど」
「ハズレだよ。正解は、血液さ。僕が再婚しない理由は、ここにある」
ニヤリと口角を上げて藤村が答えを言うと、ミドリは両手で口を押え、目を丸くして驚いた。




