045
ミドリとシノが屋根裏部屋に隠れている頃、特高の警官ふたりは、書斎を探っていた。
「書棚の鍵は、どこにある。渡したまえ」
「失くしました。何せ、無駄に広くて古い屋敷ですから。なんなら、これから僕と一緒に探してみますか? こんな山の上までハイキングに来るくらいですから、どうせ、お暇でしょう?」
「貴様、本官を侮辱する気か!」
他人を小馬鹿にしたような態度を取る藤村に対し、ふたりの警官のうち比較的若い方がツカツカと詰め寄り、藤村のベストに掴みかかる。
藤村は、それでも取り乱すことなく、平常心で無駄口を叩き続ける。
「オッと。そこから、どうします? 牛殺しやビンタでもしますか? あるいは、腰に帯びた長物で首を刎ねますか? 念のために申し上げておきますと、僕の学友やその親類の中には、検事や判事も居ますよ?」
「この野郎っ」
「やめたまえ、君」
挑発に乗って手を上げようとした若い警官を、年嵩の警官が一喝して制する。
「しかし、言われっぱなしでは、面目が……」
「上官命令だ。手を離したまえ」
「はい」
年嵩の警官がひと睨みすると、若い警官は胸ぐらを掴んでいた手を離した。
「うぅむ、どうやら、我々の見込み違いだったようだ。お手数をお掛けして、申し訳ない」
「いえいえ。本業が多忙なので留守にしがちですが、また、いつでもどうぞ」
「なかなか立派な屋敷だ。今度は、制服でない時にお邪魔させていただこう。――東京へ戻るぞ」
「はい、上官!」
警官たちが書斎をあとにしようとすると、ドアの前で控えていたエリはドアを開け、そのままふたりを正面玄関へと案内していく。
三者の後ろ姿が廊下の向こうへと消えたのを確認すると、藤村はドアを閉め、部屋の隅に立っている西洋の鎧騎士に声を掛ける。
「いったい君は何を考えているのかね、アオイくん」
「あれ? 気配を消してたつもりだったのになぁ」
アオイは兜を脱ぎ、ガシャガシャと金属音を立てながら藤村に近寄る。
「倉庫に安置していた物が書斎にあったら、誰でもおかしいと思うに決まってる。価値が下がるから、早急に脱ぎなさい」
「イヤン、エッチ!」
「悩ましい声を出すな、馬鹿者」
鎧を脱がせてみると、アオイは下着と靴下以外に何も身に付けていなかったので、藤村は二つの意味で目を覆った。




