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037

「人狼って、何が悪いんですか?」


 ミドリの無邪気な質問に、アオイは思わず前のめりになる。

 エリは、そんなアオイのリアクションを無視し、ミドリの質問に答える。


「空腹で人間を襲うかもしれない、怪力だから器物を破壊するかもしれない。何より、いつもは人間の癖に、急に見た目が獣に近くなるものだから、得体がしれないでしょう?」


 エリの回答に納得しない様子で、ミドリは、こめかみに人差し指を当ててウーンと考えてから、持論を展開する。


「お腹が空き過ぎれば、誰でも頭が働かなくなって凶暴になりますし、道具を使えば、非力でも物を壊すことは出来ます。たとえ狼みたいな見た目でも、中身はヒトのままなんでしょう? 何かしたわけでもないのに、何かするかもしれないってだけで忌み嫌うのは、間違ってると思うわ」

「へっへっへ。論破されちゃったね。どうする、エリちゃん?」

「うるさい。――ミドリさんには、誰とでも親しくできるだけの大きな器があるのね」


 煽り立てるアオイに一喝してから、エリは感心した。

 アオイは、つれない態度が気に入らないのか、さらに調子に乗る。


「負けを認めたね。まぁ、満月でなくたって、怒ると歯や爪が尖るし、嬉しいと尻尾が出るし、興奮すると獣耳になるよね?」 

「えぇ、その通り。それを確かめるために、さんざん予定外のことをしてくれたのは、未だに腹立たしいところだけど」

「落ち着いてくれよ。あの頃は、どういう時にどういう反応を示すか把握するためにも、理性の箍を外そうと必死だったんだ」

「あっ! ひょっとして、いつも努めて冷静なのは……」


 アオイとエリの会話から、ミドリは発見点を言おうとするが、エリは、それを見越して先に答える。


「お察しの通り、迂闊にボロを出さないためよ。――わたしの苦労も知らないで、この男は……」 

「まぁまぁまぁ。その点は、それだけじゃないでしょう? どうしてドイツ語だったのかなぁ?」


 憎々しげに睨みを効かせるエリに対し、アオイは両手をハタハタと動かして宥めると、そのまま意地悪な質問をする。

 すると、エリはハァーと大きなため息を吐いてから、期待に目を輝かせているミドリから視線を外し、言いたく無さそうな様子で身の上話を始める。


「わたしね。今は亡き大旦那様の私生児なの。わたしの母親は、ドイツの踊り子だったんですって。それがコンプレックスで、軟弱なことが嫌いなの」

「息子である藤村様とは違って、色を好む性格でね。僕に子守を任せてフラフラッと旅行に出掛けたかと思えば、現地で恋人を作るのが常だったんだ」

「まぁ、困った人ね。あっ、待って。ということは、エリさんは……」

「お察しの通り、藤村様とは腹違いのきょうだいよ。そうでもなきゃ、ここでわたしを雇うことを、大旦那様の奥様が認めないわ」

「エリちゃんがココへ来たのは、ちょうど、今のミドリちゃんと同じ年頃だったんだ。奥様は嫉妬深い性分だったから、藤村様が説得しなかったら、ドイツへ送り返されてたところさ」

「なるほど。よく分かりました」


 ミドリが納得すると、エリは、肩の荷が下りたようにホッと安堵の息をつく。

 しかし、安心するのは、まだ早かったかもしれない。

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