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「あのっ。ひとつ、お願いしても良いですか?」
「何かしら?」
「えーっと。オオカミさんになったエリさんの身体、触ってみても良いですか?」
うずうずと欲望を抑えきれない様子で両手の指を動かしつつ、ミドリは意を決してエリに訊ねた。
「おっ! ミドリちゃん、大胆だね~。僕も撫でて良いかい?」
「茶化すお調子者には、指一本触れさせません。――どうぞ。好きなだけ触りなさい」
エリは、アオイに牙を剥いて威嚇してから、ミドリの足元にすり寄り、そのまま後ろ足を畳んで座った。いわゆる、お座りのポーズである。
ミドリも、両膝を揃えてしゃがみ込み、モフモフの獣毛を撫で始めた。
「ミドリちゃん。触り心地は、いかが? 見た感じだと、ゴワゴワしてそうだけど」
「背中はスベスベで、おなかはフワフワしてて、ちっともゴワゴワしてないわ。きっと、日頃のお手入れが良いのね」
アオイの要望に応え、ミドリが体験ルポをお届けする。すると、気持ちが良いのか、それとも照れ臭いのか、エリはソッポを向いてしまう。
「ハァ~。こうしてると、庭で飼ってたハナを思い出すわ」
「ハナって?」
「シベリアンハスキーの女の子よ。怒ってるような顔だし、鳴き声も野太かったんだけど、わたしに懐いてて賢かったの」
「へぇ。ミドリちゃんの家は、犬を飼ってたんだね」
何気なくアオイが感想を口にすると、ミドリは、エリの首に腕を回して頬をスリスリと擦りつつ、いささか愁いを帯びた表情をして沈んだ声で言う。
「震災の日に、お母様がリードを外して逃したの。『もう、あんたは自由だよ。どこへなと好きにお行き』って。それ以来、ハナの姿は見てないわ」
「そう。それは、辛かったわね」
肉球のある前足でミドリの頭をポンポンと叩きながら、エリは慰めた。
「まぁ、どこかで元気にしてるんじゃないかな。――あっ、もう二時だ」
開けっ放しのドアの向こうから、小さくボーン、ボーンという音が聞こえてきた。
このあと、姿が戻るまでココに居るというエリを残し、ミドリとアオイは、それぞれの部屋へと戻って行った。




