027
「余計な脂が無くて、食べやすかっただろう?」
「えぇ。美味しかったです」
すっかり夜が更けた頃。ソファーに座る藤村と、その脇に銀盆を持って立っているミドリが会話を交わしている。
ローテーブルの上には、斜め四十五度に切られたサンドイッチが、ブルーオニオンの絵柄の白磁皿に載せて置かれている。
「でも、わたしたちだけで頂いてしまって、本当に良かったんですか?」
「良いんだ。今夜は遅くなると、前々から分かっていたことだから。それに、四十を過ぎた僕に、すき焼きは重いからね。――シノは、もう寝たのかな?」
「はい。おやすみになってます」
「君も、早く寝なさい。――寝る前に一つ、どうだい?」
「あっ、いえ。もう、お腹いっぱいなので。お気持ちだけ、いただいておきます」
藤村が片手でローテーブルを示しながらサンドイッチを勧めると、ミドリは、遠慮がちに断る。
そして、口を端を噛んで言おうか言うまいかしばし迷ってから、思い切って話しかける。
「あの、藤村様」
「なんだい?」
「えーっと。アオイさんが、その、エルフだっていうのは……」
そこまで言いかけたところで、ミドリが続きの言葉を探していると、藤村は、サンドイッチに伸ばした手を引っ込め、嬉しそうに言う。
「あぁ。アオイがエルフだってことを、ようやく知ったんだね。驚いただろう?」
「えぇ、とってもビックリしました」
「……それだけかい? 黙っていたことへの憤りや、騙されていたという怒りや、人間でないという恐怖は感じなかった?」
「いえ。変わってるとは思ってましたから、むしろ、腑に落ちました」
「ハッハッハ。すんなり納得したか。これは傑作だね。やはり、君は変わり者だよ」
藤村は、心底から愉快そうに破顔一笑すると、労わりの気持ちを込めてミドリに言う。
「他に、言っておきたいことは? 無ければ、もう部屋に戻って休みなさい。お盆は、テーブルに置いておいて良いから」
「いえ、それだけです。おやすみなさい」
「おやすみ」
ミドリは、ペコリとお辞儀をすると、言われた通りに銀盆をローテーブルの端に置き、書斎をあとにした。
藤村は、ドアが閉まったのを確認すると、おもむろにサンドイッチへ手を伸ばした。




