025
「雑談するために温室を使うなら、鍵を取り上げてもらいますよ?」
「悪かったって。そう、カリカリするなよ。――ゴホッゴホッ」
重たい円筒形の本体からホースとノズルが伸びている形の電気掃除機を持ち運びながら、屋敷じゅうの絨毯のゴミを吸い取ったあと、ふたりは水場へ移動し、本体に内蔵されている漏斗型の布フィルターを外して埃を捨て、水洗いしている。
「だいたい、僕が鍵を持ってなかったら、誰も温室に入れないじゃないか。それに、何だかんだ言っても、仕事はこなしてるだろう?」
「まぁ、そうね。雑だけど、要領は悪くないわ」
「褒めるんなら、口角を上げてほしいなぁ。無理矢理言わせてるみたいじゃないか」
「その通りよ。ご名答」
文句を言うアオイを、エリは適当にあしらい、話題を変える。
「今日は、わりに良い卵と牛肉が手に入ったから、すき焼きかライスカレーにでもしようと思うんだけど」
「オッ、良いね! ハイカラじゃないか。ここのところ野菜中心だったから、育ち盛りに悪いなぁと思ってたんだ。体力がつけば、人化の術の習得も早まる」
「そうだと良いんだけど」
「でも、欲を言えばカルシュームも摂りたいなぁ。すぐにイライラする、誰かさんのためにも」
「悪いけど、牛乳は無いのよ。海から遠いから、新鮮な魚介類も手に入りにくいし」
「高地だからな。その代わり、空気は美味しいし、水は澄み切ってる。夏は、涼しく快適」
「冬は寒くて凍えるし、雪で閉じ込められるし、雪下ろしが大変だけどね」
「二つ良いことは無いものだな。――こんなもので、良いか」
会話を区切ると、アオイはフィルターを盥から出して掲げ、陽に透かせる。そして、それを石造りの水場の縁に置くと、盥を傾け、黒々と汚れた水を捨てる。
「二つ良いことは無いものね。要領が良くて、くだらない悪戯をしないなら、手が掛からないんだけど」
そう言って、エリも盥の水を捨て、縁に置いたフィルターをピンチで洗濯紐に留める。
「あっ、ついでにコレもお願い」
「自分でやりなさいよ、もぅ」
アオイがフィルターとピンチを差し出すと、エリは苦言を呈しつつ、受け取って同じように洗濯紐に留める。
「石炭を食べる鉄の馬。汽笛一声、新橋を~」
「しようのないことを言わないで。あとは、あれを倉庫に戻しといてちょうだいね。わたしは、お嬢様とミドリさんの様子を見てくるから」
「待ってよ、エリちゃん。か弱い僕に、ひとりで、あれを倉庫まで持ってけって言うの?」
水場のそばの石畳の上に置いてある二台の掃除機を指差し、アオイは不満の声を上げる。
「働かざる者、食うべからずよ。少しは、そのゴボウみたいな腕を鍛えなさい」
「そんな~」
格言を持ち出し、エリは有無を言わさぬ調子で話をまとめ、エプロンの端で両手の水滴を拭き取りつつ、その場をあとにした。
「よいしょ、っとっとっと、うわっ、重たい。これは、一台ずつじゃないと無理だな」
アオイは、両手で二台同時に持ち上げようとしたが、すぐに石畳に上に下ろし、にわかに額に汗を噴き出しつつ、一台を両手で持って運び始めた。




