023
「エルフ?」
「そう、エルフ。と言っても、ピンと来ないかな」
天板が丸くスノコ状になっているガーデンテーブルを囲み、ミドリとアオイは、穏やかな晩秋の陽光が差し込む温室で歓談している。テーブルの上には、未使用のカップとソーサーが二組と、ティーコージーを被せたポットが一つある。
ミドリが、まるで食べ慣れない舶来物を口にしたかのような反応を示したので、アオイは補足することにしたようだ。
「イギリスやデンマークの神話に登場するんだけど、話によってバラバラでね。身体能力が高いとか、知識に富むとか、魔法を使えるとか、いろいろ言われてるんだ」
「へぇ~。あっ、ひょっとして、シェイクスピアの戯曲に出てくる妖精さんも、エルフなのかしら?」
「そうそう、広い意味ではね。まぁ、厳密には違うんだけど。ひとまず、人間と同じくらいの背丈で、こんな風に長く尖った耳をしている生き物だと思っておいて。ここまでで、何か質問は?」
アオイは、片手で髪をかき分けて片耳を出すと、疑問点が無いか訊ねた。
「エルフは、西洋の生き物なんですよね? どうして、アオイさんは、ここに居るの?」
「あっ、そっか。基本的な事を言い忘れてたね。良い質問だよ。――そろそろ、蒸らし終わったかな」
ミドリの質問に対し、アオイが盲点を突かれたようにハッとすると、ティーコージーを外して脇に置いてからポットを持ち、濃さや量が均等になるように、二つのカップに交互にハーブティーを注いでいく。
「冷めないうちに、どうぞ」
「いただきます。……あっ、美味しい」
「それは、よかった」
勧めに応じ、ミドリは紅茶を飲み始めた。アオイも、ひと口啜って喉を潤してから、身の上話を再開する。
「スカンジナビアにある、白樺が生え並ぶ村で生まれたんだけどさ。そのエルフの村は、コレをしなければならない、アレをしてはいけない、って具合に、何かと掟が多かったんだ。中でも、村の外へ出てはいけないという掟と、人間と接触してはならないという掟が、まだ幼かった僕には辛くてね」
「まぁ。ずいぶん窮屈な村なんですね」
「そう思うだろう? たった一度の掟を破れば、禁忌をおかして堕落した者だとレッテルを貼られて村八分さ。あれも駄目、これも駄目で、息が詰まって頭が酸欠になっちゃいそうだったから、追い出される前に村を飛び出したんだ」
「あらあら。思い切った事をしたものね」
「若気の至りさ。それから、あちこちを旅して、いろんな人間や食べ物や街を見てきたんだけどさ。――あぁ、そうだ」
このあと、ミドリは驚き、同情し、最後には笑顔になるのだが、その話は、この次にしよう。




