022
「ねぇ、エリちゃん。どうしよう~。僕、どうしたら良いと思う?」
「知らないわよ。自分で考えなさい」
エプロンの結び目を引っ張りながら助言を求めるアオイを、エリは肘で頬を押して遠ざけようとする。
ミドリはシノの相手をしており、藤村は仕事へ出掛けたあとなので、給湯室には、ふたりの他には誰も居ない。
「ムググ。自分で考えてもベストな答えが出ないから、意見を求めるんじゃないか。アドバイス、プリーズ」
「めんどくさいわね。いっそ、洗いざらい白状しなさいよ」
「協力する気が無いとは。この、薄情者め! 新月の夜は、背後に気を付けろよ~」
「やってごらんなさい。満月の夜に、熨斗付けて返してやるわ!」
「こわっ! 牙が見えてるよ、エリちゃん」
ハッと息をのみ、エリは慌てて両手で口元を覆い隠す。すると、アオイはニヤニヤしながら、悪戯が決まったとばかりに喜ぶ。
「やーい、やーい。引っ掛かった!」
「実年齢は三桁の癖に、子供みたいな真似をしよって。許さないわよ!」
「アイテテテ。のびる、のびちゃう、千切れちゃう~」
カッと怒り心頭に発したエリは、アオイの耳朶を摘まみ上げ、そのまま斜め上に捻り上げた。
*
「わたしが居ないあいだに、エリさんと何かあったんですか?」
「ううん、気にしないで。いつものことだけど、僕が余計なちょっかいを掛けたのが原因だから」
空のカップやソーサーを載せた銀盆を持ったミドリが給湯室に戻ってくると、そこにエリの姿は無く、アオイひとりだけが居た。
壁際の椅子に座っているアオイは、モルタルの壁に後ろ頭を預けつつ、水枕で頬を冷やしている。
ミドリは、何があったのかしらと首を傾げつつも、洗い桶に水を張り、海綿にシャボンを付けてカップを洗い始める。
その後ろ姿を、しばらくアオイは見るともなしに見ていたが、やがて、体温で水枕が人肌にぬるくなったことに気付いて立ち上がり、水を入れ替える体でミドリの横に立ち、枕のゴム栓を抜いて水を捨てる。
ミドリは、洗い終わったカップやソーサーの水滴を布巾で拭い、洗いかごの上に重ならないように置いていきながら、話を切り出す。
「裏庭でのことで、訊いても良いですか?」
ミドリが訊ねてから、ふたりのあいだに数秒ほどの沈黙が流れたあと、アオイは、ためらいがちに言う。
「あぁ、良いよ。僕も、そのうち話さなきゃなぁと思ってたんだ。何を知りたい?」
「すべて教えて。これまで隠してきたことを、お話できる範囲で良いから」
「……わかったよ。ただ、話せば長くなるし、誰かに聞かれると具合が悪いから、温室に来てくれるかい?」
「はい」
「よし。それじゃあ行こうか、マドマーゼル」
「ウィー、ムッシュ」
アオイが片手を差し出すと、ミドリはその手をとり、ふたり並んで温室へと歩いて行った。




