021
季節は更に進み、すっかり秋も深まった頃のこと。
「掃いた端から葉っぱが落ちてくるんじゃ、キリが無いわ」
屋敷から温室とは反対側に出たところにある広い裏庭で、ミドリは、赤に黄に色付いた葉を竹の熊手でかき集めていた。
しかし、集めるそばから、木枯らしに乗って一枚、また一枚と葉が舞い落ちてくるので、ミドリは掃く手を止め、庭の中心にひときわ大きく聳え立つ樹を見上げた。
すると、枝葉の隙間から、木俣に見慣れた人物が寝転んでいる姿が見て取れることに気付いた。
「そんなところで寝てたら、風邪ひくわよ、アオイさん!」
「えっ? あぁ、ミドリちゃんか。ちょっと、そこに居ててね~」
組んだ両手を枕にしていたアオイは、ミドリの声を聞いて起き上がると、洞や瘤に手を掛けたり足を載せたりしながら、器用に地面に降り立った。
「お待たせ! 焚火でもするところかい?」
ミドリが手にしている熊手を指差しながら、アオイは陽気に問いかけた。
しかし、ミドリは、それより気になることがあったので、アオイの質問には答えず、別の質問を返した。
「その耳、どうしたんですか?」
そういって、ミドリは、銀色の癖毛のあいだから飛び出している褐色の耳に注目する。
ミドリが興味を持つのも、無理もない。普段は髪で覆い隠している耳の上端は、鬼か悪魔のそれのように鋭角に尖っているのだから。
「あっ、しまった! とうとう見られちゃったか。怖がらせないように、隠してたんだけどなぁ」
アオイは、指摘されて初めて失態に気付き、パッと両手で耳を覆い隠した。が、すぐにそれが無意味な行為だと考え直し、横髪を指で梳き、耳の上に掛けた髪を戻しながら言った。
どこか気恥ずかしげな様子を見ながら、詮索しては悪いと思いつつも、ミドリはアオイの横髪をかき上げて観察する。
「ひょっとして、アオイさんも、お嬢様みたいに、特別な何かを持っているんじゃなくて?」
「そんな良いものじゃないよ。くすぐったいから、それくらいにして」
耳朶を持っているミドリの手をそっと離させると、アオイは赤銅色の頬を更に赤らめ、顔を伏せて前屈みになって走り去って行った。
「作り物でないことは、分かったけど、何がそんなに恥ずかしいのかしら? アオイさんが恥ずかしがる姿なんて、初めて見たわ」
ミドリは、あっという間に小さくなったアオイの後ろ姿を見つめながら、小声で呟いた。そして、気を取り直して、さらに枚数が増えた落ち葉をかき集め始めた。




