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あるオッサンとミートソース

 来ていただきありがとうございます。難しいですね。精進しなければ。

 弱火で熱したフライパン。プツプツとした気泡と共に吐き出されるニンニクと鷹の爪の香り。それらを横目に見つつひたすら刻む、刻む。


 今日も残業だった。春から再び一人部署になってしまった部にようやく補充要員が入ってきた。 一日中つきっきりで面倒を見て…二日に一日は書類仕事を任せることで何とか自分の仕事時間を捻出しているが、そろそろ手を放していかないと限界だ。


「はらへり…」


 誰に聞かせるでもなく呟く。 以前の部下は夕飯時になると目に見えてそわそわし出し、残業時間がある程度になると察した時点で買い出し要員に立候補してくれたものだが…まぁ居ないやつのことを言っても仕方ない。今度の子は遅くなっても家で飯を食いたい派らしく、それはそれでお財布に優しくて素晴らしい部下なのだ。 少しだけ寂しい気がするのは、帰っても誰も待っていない独り者だからだろう。


 玉ねぎと残り物のエリンギ、椎茸はヘタまで刻んで加える。ざっくりと混ぜて油を回し、中挽のひき肉を崩しすぎないように加え、くさみ消しに適当なスパイスとソースを少々。

 最近はネットで見かけた知識が色々便利で重宝している。 思えば今日のメニューもそんな風に衝動的に決めたものだった。さすがにこの時間から挑戦するには本格的なレシピだったので、こちらは手抜きレシピなのだが…出来上がり写真は文句なしに旨そうだったのでいつかは挑戦したい。


 ポロポロになりすぎないように暫し放置したひき肉を混ぜ込み、カットトマトとレトルトミートソース缶を加える。缶にこびりついた残りは冷蔵庫の箱ワインで流して加えた。ブーケガルニ、生マッシュルームのスライスを加えて混ぜたら火を最小する。とろ火のさらに下…IHはこういうところが便利だ。

 引っ越した当初は直火が使えないキッチンなんて…と思っていたが、7年も暮らせば慣れてくるもので吹き消えてしまう心配のない特性はこういう使い方には向いていると思う。周囲に可燃物が無いことをもう一度確認してひとっ風呂浴びてくる。


「おっといい感じ」


 ひとりも長くなると独白が多くなっていけない。フライパンの中身を確認するといい具合に煮詰まって来ている。パスタを茹でる鍋をグラグラと沸き立たせている間に、箱ワインをグラスに注ぎ立ったまま飲み始めた。軽めの…癖のない、よく冷えた白が風呂上がりの喉を潤す。立て続けにコップに二杯…三十分ほどの半身浴で水分を絞り出した体に染み渡る。徹底的にビール党だがメニューと店に合わせて何でも飲む…いわゆるのんべぇなのでこういうのも偶には良い。


 三杯目には、冷蔵庫にもう一つ並んだ箱のつまみを捻った。一段を半分ほどを占領している二つの箱はそれぞれ白と赤の箱ワインだ。一つ買ってみたら悪くないので、つい調子にのってつい並べたくなってしまったのが間違いだった。お陰で六リットル…まさしく水のように消費できる量になってしまった。この調子ですきっ腹に入れていると潰れてしまうだろう。チルド室から取り出した羊乳のハードチーズを薄くスライスし半分をミキサーにかける。塩気と旨みの強いお気に入り…残りをパクつきながらパスタの茹で加減を見るとちょうど頃合いのようだった。


 薄切りのチーズをつまみに安ワインをクピクピとやりながら、熱々の麺を渦を巻くように皿に盛りつける。肉感充分なソースをたっぷり掛けて、今卸したばかりの粉チーズをごっそと振りまいた。


 うまい、見た目だけで確信できる。すきっ腹なうえに多分に欲目も入っているのだが。食べるのだって俺自身なのだから、そこにギャップも問題もまるでない。

 フォークに絡めたパスタにたっぷりとソースを載せて口に運ぶ。むぎゅりとした肉を噛みしめる快感とトマトの旨み、玉ねぎの甘みに反応して脳が快楽物質を分泌し始める。かみ砕き咀嚼するごとに穀物を摂取する喜びが全身に拍動する。癖の少ない…それでも舌先を微かに痺れさせる渋みの赤が口中を洗い流してゆく。

 深夜三時、昼以来の補給されなかったカロリーが体中に満ちてゆく。



 ほんの少し前まで、おいしいものを食べると脳裏に浮かんでいたやつのことは欠片も浮かばなかった。 こうやって時間は過ぎてゆくものなのだなぁ…あと十ヵ月は長いね。

 お読みいただきありがとうございました。

感謝しかありませぬ m(_ _)m

 久々に書いたらオッサンが料理して喰うだけの話になってしまったような…頑張ります。

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