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【50万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第319話 明日への期待

フォルティア荒野、カクカクシティ中央広場。


夕暮れの赤い光が、未舗装の地面と新しく建てられた家々の壁をじんわり照らしていた。

広場の真ん中には、でかい鉄鍋がいくつも据えられていて、そのうちのひとつでは俺が大鍋のカレーをぐるぐるとかき混ぜている。


隣では、紅龍さんがものすごく真剣な顔でフライヤーを見つめていた。


揚がる音は、じゅわあああああ……!

油のはじける香ばしい音と、スパイスの匂いと、肉の旨そうな匂いが広場いっぱいに広がっている。


大鍋の前には召喚高校生たちが列を作り、その合間を縫うように巨大フェンリルたちが尻尾をぶんぶん振ってうろうろしていた。

いや、うろうろっていうか、あいつら体格がでかいから、いるだけで圧がすごい。


その列の先頭側では、ブリジットちゃんが手際よく皿へカレーをよそって、そこへ紅龍さんの揚げたカツを乗せ、次々と配膳している。


俺は鍋をかき混ぜながら、我ながら満足げにうなずいた。




「いや〜、やって良かったね! カツカレーパーティ! 皆も喜んでくれてるみたいだし!」




実際、かなり好評だ。


ギャルズは「やば、うまっ!」とか言いながら巨大犬に囲まれて笑ってるし、オタク四天王たちは「これは米との一体感が……」「いや、カツの食感が全体を支配している……」とか謎に評論家っぽいことを言いながら夢中で食ってる。

フェンリル勢も勢いがすごい。

カレーの匂いだけでテンションが上がってるのが丸分かりだ。


ブリジットちゃんも、配膳の手を止めずににこっと笑った。




「うん! アルドくんのカツカレー、物凄く好評だよ! でも、どうして“カツカレー”なの?」



「ああ、それ?」




俺は木べらを持ったまま答える。




「勝負事の前は『カツ』を食べると縁起が良いんだよ! 勝負にカツ、ってね!」



「なるほど〜!」




ブリジットちゃんが素直に感心した声を上げる。

すると、隣でカツを揚げていた紅龍さんが、ぐっと頷いた。




「さすがはアルド師父。実力がありながら、験を担ぐことも忘れぬそのお姿。飽くなき勝利への執着心。まこと、畏れ入ります」



「いや、そこまで大層な話じゃないからね?」



「謙遜までなさる……! この紅龍、ますます感服いたしました」




何をどう受け取ったのか分からないけど、紅龍さんはひどく納得したらしく、さらに真剣な表情でカツをひっくり返した。


その向こうでは、ミサキさんたちがポメちゃんの首に抱きついたり、逆にポメちゃんの方が顔をべろべろ舐め回したりしていて、かなり賑やかだ。

オタク四天王たちも、陽キャ三人組も、なんだかんだ巨大犬たちと仲良くやってる。

あの光景を見てると、やっぱりやって良かったなと思う。


本戦前で空気が張り詰めすぎるのも良くないしな。

食える時に、ちゃんと食っておくのは大事だ。


そんなことを考えていると、列に並んでいた鬼塚くんが皿を受け取りつつ、ふと遠慮がちに口を開いた。




「でも、アルドさんとブリジットさんが配膳しなくても……明日の主役なんだし、ゆっくりしてても良いんじゃないっスか?」




その言葉に、俺は内心ものすごく頷いた。

それは本当そう!

俺は好きでやってるからいい。

こういうイベントごと、嫌いじゃないし。

でも、ブリジットちゃんは違う。


明日の主役だ。

本戦の結果次第じゃ、これからの人生が変わるかもしれない。

だから本当なら、もっと座ってのんびりしててくれてもいいのに、と思う。


……けど。


ブリジットちゃんは、皿を差し出す手を止めずに笑った。




「──ううん、今は身体動かしてたいの!」




その笑顔は、明るい。

明るいけど、ちょっとだけ無理してる感じもあった。




「やっぱり、緊張してるのかな? あはは……じっとしてると、色々考えちゃって」




そう言って笑うブリジットちゃんの手元を見て、俺は小さく目を細めた。


皿を持つ指先が、かすかに震えている。


……そりゃ、そうだよな。


明日の本戦は、ブリジットちゃんにとって、ただの大会じゃない。

フォルティアでの自分の在り方。

ご両親との関係。

ここまで積み重ねてきたものが、全部どこかで繋がっている。


緊張しない方がおかしい。


俺は鍋をかき混ぜる手を止めて、ブリジットちゃんへ声をかけた。




「ブリジットちゃん。やっぱり、俺さ……」




言いかけた、その瞬間だった。




「大丈夫っスよ、ブリジットさん!」




鬼塚くんが、割り込むように言った。


俺とブリジットちゃんが揃ってそっちを見ると、鬼塚くんはどん、と胸を叩いてみせる。




「明日は俺も全身全霊でやらせてもらうんで! 優勝くらい、余裕っスよ!」




おお。

珍しいな。


鬼塚くんって、見た目はヤンキーそのものだけど、意外とこういう時に無責任な大口を叩くタイプじゃない。

もっとこう、状況見てから喋るっていうか、思ったより慎重派なんだよな。


だからこそ、今の強気な言葉はちょっと意外だった。


そこへ、カクテルグラスを片手に、どこからともなくジュラ姉が現れた。




「いい事言うじゃない、鬼塚きゅん」




グラスの中の透明な酒を、彼女はくいっと一気に飲み干す。

それから、空になったグラスをひらりと傾けてみせた。




「フフフ……これは『カイピロスカ』。カクテル言葉は『明日への期待』よ。ブリジットさんもいかが?」



「わぁ、美味しそう……! でも、あたし、お酒飲んだ事無いから……」




ブリジットちゃんが困ったように笑うと、ジュラ姉は肩をすくめた。




「アラ、残念! もう少し大人になったら、一緒に恋バナでもしながら飲み交わしましょ!」




そう言ってステキにウインクしたかと思うと、そのまま手元のカクテルグラスを──


バリバリバリッ。


食べ始めた。




「……」




またやってる。


ジュラ姉、絶対“食器”って言葉を“食べられる器”って意味だと勘違いしてるのかな?

いや、ジュラ姉の場合、本当に“食べられる”から余計にややこしいんだよな。


ちらっと鬼塚くんを見ると、完全にスルーしていた。


……鬼塚くんも大分染まってきたね。


そう思っていると、鬼塚くんはふと思いついたように「あ」と言った。




「でも」




その声色が少しだけ変わる。




「アイツだけは、ちょっと手に負えるか自信無いっスね。あの第六王子、ラグナ・ゼタ・エルディナス」




ブリジットちゃんが、ぴくっと反応した。

鬼塚くんは皿を持ったまま、静かに続ける。




「あの王子……初めはカッコつけのいけ好かねぇヤツだと思ってたんスけど……」




うん、それは分かる。




「予選会でアルドさんと真っ向からやり合ったってのを聞いて、ちょっと見る目が変わったっつーか、見直したっつーか」




鬼塚くんは少しだけ目を伏せる。




「ただ環境と才能に溺れてるだけのヤツじゃねぇのかもな、って思ったんスよね」




その言葉に、俺は内心で少し驚いた。


……鬼塚くんも、俺と同じこと思ってたのか。


ラグナは面倒くさいし、自信過剰だし、いちいち言い回しが芝居がかってる。

でも、それだけじゃない。

あいつはちゃんと、積み上げた強さを持ってる。

だからこそ、こっちも真正面から向き合わなきゃいけない相手だと思ってた。


鬼塚くんは、さらに言葉を重ねる。




「アイツは、アルドさんを除けば、この大会でも頭一つ抜けてると思うんス」




それは、だいぶ高い評価だ。

鬼塚くんがそこまで言うなら、本当にそうなんだろう。




「だから──」




鬼塚くんは顔を上げて、まっすぐ俺を見た。




「アルドさんは、ラグナの野郎と決着をつけることに専念してください! 他のヤツらは、俺とジュラ姉で片付けるんで!」




その瞬間、胸の奥がじんと熱くなった。


ああ、そうか。


鬼塚くん、気づいてたんだ。

俺がさっき、ブリジットちゃんの震える手を見て、迷ったことに。


本気を出すべきか。

それとも、“人間アルド・ラクシズ”として、自分をライバル視してるラグナに向き合うべきか。


その迷いを、鬼塚くんは見抜いてた。

見抜いたうえで、“ラグナの相手をする”って役割を俺に与えてくれたんだ。


そうすれば、俺はそれを理由に迷わずに済むから。


……やるじゃん、鬼塚くん。


ジュラ姉も、ふっと笑って頷いた。




「そういう事。アルドきゅんには、アルドきゅんにしか出来ない役目があるのよ」




俺は思わずブリジットちゃんの方を見た。


ブリジットちゃんは、俺の視線をまっすぐ受け止める。

それから、にこっと笑った。




「うん、あたしもそれがいいと思うな!」




その言葉は迷いがない。




「アルドくん、ラグナ王子の相手、お願いできるかな?」




そこで一瞬だけ間を置いて、ブリジットちゃんは言った。




「アルドくんにしか、頼めないんだ!」




……それは、ずるい。


そんなふうに言われたら、もう迷えるわけがない。

俺は自然と笑っていた。




「任せてよ! ラグナのヤツは、俺が相手するよ!」




そして少しだけ冗談めかして肩をすくめる。




「だって……俺はアイツの“ライバルキャラ”らしいからね!」




ブリジットちゃんが笑う。

鬼塚くんも、ジュラ姉も笑った。


その空気がちょうどいい感じにまとまりかけた、その時だった。




「なになに〜? チームメンバーで結束固めちゃってる系っすか〜?」




ぬっ、とジュラ姉と鬼塚くんの背後から、腕を二人の肩へ回すようにしてリュナちゃんが現れた。




「おわっ!? リュナ姉!」


「リュナ様ッ!」




鬼塚くんとジュラ姉が同時にびっくりする。

ブリジットちゃんはぱっと嬉しそうに顔を明るくした。




「リュナちゃん! もちろん、リュナちゃんだって、うちのチームの一員だよ!」


「やったー!」




リュナちゃんはにへっと笑う。

俺はその流れで自然に聞いた。




「リュナちゃん、カツカレーおかわりいる?」




するとリュナちゃんは、ぴーんと手を挙げた。




「いる! いるっす! カツメガ盛りで!」



「あいよ!了解!」




俺はすぐに隣へ声をかける。




「紅龍さーん、カツ十枚くらい揚げてくれる?」




紅龍さんは、油の前でぴたりと姿勢を正し、拳と掌を合わせて一礼した。




「御意に」




返事がいちいち武人すぎるんだよな、この人。

でも動きはめちゃくちゃ早い。


その時だった。




「おいおい、皆お集まりじゃあないの。俺たちも混ぜてくれよ」




聞き慣れたキザったらしい声がして、そちらを見ると、フレキくんを抱いたヴァレンがふらっと現れていた。




「明日はいよいよ本戦ですねっ!」




フレキくんはハッハッハッと嬉しそうに息をしながら、ヴァレンの腕からぴょんと飛び降りる。




「ボクもブリジットさんの従魔として、精一杯頑張るつもりですっ!」




えらい。

ほんとにえらい。


ただ、その直後。


すでにテーブルについてメガ盛りカツカレーを食べ始めていたリュナちゃんが、膝へフレキくんを乗せながら、ぴしゃりと言った。




「ざんね〜ん。ヴァレン、オメェの席、無ぇから!」



「相変わらず俺に辛辣だねぇ、リュナは」



「事実だっつ〜の」




俺は鍋をかき混ぜながらヴァレンへ声をかけた。




「ごめん、ヴァレン! 席足りないよね! 今、パイプ椅子出すから!」




するとヴァレンは、ふっと口元を上げる。




「ククク……心配には及ばないぜ、相棒」




そう言って左手で魔本“ときめきグリモワル”を開いた。




「"心花顕現(サモン・フラッター)"」




右手の指を、パチン、と鳴らす。


次の瞬間。


広場の中心から、するすると深い色合いのカーペットが広がっていった。




「おおっ!」




思わず声が出る。


さらに、その上へ高級そうなテーブルと椅子が次々と現れ、幻想的なランプやボトルラックまで並び始めた。

一瞬で、中央広場の一角がムーディーな屋外バーみたいな空間へ変わっていく。


相変わらず、何でもありのチート能力だ。


周囲から歓声が上がる。


ギャルズは「やばー! なにこれオシャレ!」と騒ぎ、オタク四天王は「演出が強すぎる……」とか言いながら目を輝かせ、フェンリルたちはよく分からないままテンションだけ上がっていた。


鬼塚くんも目を丸くする。




「す、すげぇ……」




ジュラ姉は胸の前で手を組んで声を上げた。




「マッ! ステキ! 流石はヴァレン様ねッ!」




リュナちゃんは「相変わらずキザなヤツっすね〜」と毒づきながらも、目はしっかりその光景に釘付けになっている。


ブリジットちゃんなんて、もう完全に目を輝かせていた。




「わぁ……! すっごーい!」




その顔を見て、俺もつられて笑う。


いいな。

こういうの。


本戦前って、どうしても緊張とか不安とかが前に出るけど、こうしてみんなで騒げると、それだけでちょっと救われる。


そんな中で、ブリジットちゃんがふいに俺の方を向いた。


その表情が、さっきまでとは少し違って見えた。

緊張が消えたわけじゃない。

でも、それを越えて、ちゃんと前を向いた顔だった。




「あたし……やっぱり、このフォルティア荒野が……今の皆が、大好き!」




その言葉に、広場の空気が少しだけ静まる。


ブリジットちゃんは、まっすぐ前を見たまま続けた。




「まだまだここを開拓して、もっともっと、皆が幸せに暮らせる街を作っていきたい!」




その声は強かった。

以前みたいな、自分に言い聞かせるような強がりじゃない。


ちゃんと、自分の願いとして出てきた言葉だった。




「そのためにも……明日は、ちゃんと勝ちたいの。逃げずに戦って、自分のやってきたことを見せたい」




少しだけ息を吸って。




「だから……明日の“ルセリア統覇戦”、頑張ろうね! アルドくん!」




俺は、その笑顔を見返して、迷わず頷いた。




「うん!」




それから、少し大きめの声で、みんなにも聞こえるように言う。




「皆で一緒に優勝を掴み取ろうね! ブリジットちゃん!」




その瞬間、広場のあちこちから「おーっ!」とか「うまい!」とか「カツ追加!」とか、色んな声が混ざって上がった。


……いや最後のは誰?


でも、そういう雑多な賑やかさも含めて、なんだかすごく良かった。


本戦は、たぶん厳しい。

強い相手もいるし、何が起きるか分からない。


けど。


守りたいものがあって。

一緒に戦う仲間がいて。

その前に、こうして笑える夜がある。


それだけで、もう十分、戦う理由になるんだと思う。


俺は大鍋のカレーをもう一度かき混ぜながら、湯気の向こうで笑うみんなの顔を見た。


さて。


明日は、勝ちに行こう。

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