第5話「誰もが、守るための力を欲してる」
「っ、こんなとこで終わって堪るか!」
壁の内側に身を置いていれば、確実に命を守ることができると自信があった。
でも、壁の向こう側へと脱出されてしまったら、守れる命も守れなくなってしまう。
男が壁の向こうへと飛び出す瞬間と、モンスターの爪が男の喉元を狙う瞬間が重なりかけた瞬間。
「カレット!」
雷の精霊と似たような、光の球体姿の陽精霊。
モンスターの爪が人間の男に襲いかかったところに、陽精霊特有の輝かしい光が辺り一面を包み込んだ。
「一緒に戦おう」
「シスカ、さ……」
陽精霊が放つ光に、モンスターは動きを止めた。
モンスターの咆哮が響く中、シスカさんの声に集中した陽精霊は一撃を加える。
モンスターの心臓付近に深い傷をつけることに成功し、トドメを刺すことはできていなくても、モンスターは苦しむように体勢を崩した。
「私が戦うから、カレットは……」
「守りに徹します」
「うん、お願い」
シスカさんの精霊は、恐らく戦闘向けに鍛えられた精霊ではない。
でも、旅をしているからこその力ある戦いができることを、シスカさんのパートナー精霊が教えてくれる。
「kureifotono」
凶悪なモンスターの瞳に、微かな揺らぎが生じたような気がする。
陽精霊の凛々しい攻撃姿に、モンスターはどんどん足を後退させていく。
「これが……戦う力……」
次第にモンスターの体が震え始め、最強の武器として振るっていた爪が欠ける音が静かに森の中へと響いた。
「雷の精霊さん、耐えてください!」
モンスターに殺されかけた男は気を失ってしまい、どこか安全なところへ連れていくことができない。
(ピアが駆けつけるまで……)
いくらルーテの商売を邪魔した男だとしても、このまま放置していい命なんて存在しない。
法の裁きを受けるまでは、私たちが男の命を守らなければいけない。
「っ」
「シスカさんっ!」
このまま陽精霊の勢いで勝利を掴めると思っていたのは甘い考えだったらしく、モンスターは低く唸り声を上げた。
まるで息を吹き返すように、獣型モンスターの目が赤く光り始めた。
「やっぱり、戦いには向いてないかも」
シスカさんがぽつりと言葉を溢すけど、絶望的な声を発しないところがシスカさんらしいのかもしれない。
「でも、引けを取らないと思います」
「うん、陽の専門職社のおかげ」
モンスターの巨大な前脚が非常に素早い動きで雷の壁へと襲いかかってくると、雷の壁にとうとう大きな亀裂が走る。
「雷の精霊さんっ!」
雷の精霊が作り出した強固な壁に亀裂は入ったものの、雷の精霊はまだまだやれると反応を返してくれた。
静電気が生じたときに発する光のようなものが私たちの元へと集い、再び雷でできた壁の修復に取りかかる。
「かなり鍛えられてるね」
「ありがたいことに」
緊迫した空気を打ち破るように、モンスターが咆哮と共に次の一撃を繰り出そうとしていた。
シスカさんは冷静にモンスターの動きを読み、次の攻撃の手は用意していく。
陽精霊が数えきれないほどの無数の矢をモンスターへと放ち、今度こそ勝利を掴めると確信した。
「っ、速いです」
「爪が折れてから、速さが増しちゃったかも」
逃げる隙なんてないはずなのに、モンスターは赤く光る眼で抜け道を探す。
一部の矢はモンスターの体に突き刺さったけれど、モンスターは致命傷を回避した。
「動きを止めればいいんですよね」
地面に、ひれ伏した方が負け。
そんな未来を察した私は、戦う以外の力に長けた雷の精霊に視線を向ける。
光の球体では相変わらず瞳を確認することなんてできないのに、私たちの視線は確かに交わった気がする。
「雷の鎖で、モンスターを捕らえてください!」
体が麻痺する展開まで持ち込むという理想を描きながら、雷精霊に自身の考えを言葉に込めて伝えていく。
雷精霊が作り上げた雷の鎖は、私が願った通りにモンスターの体を巻き込むために追いかけていくのに、捕らえるという希望ある展開をもたらすことができない。
「っ、どうしたら……」
劣勢という言葉が頭を過った。
でも、風評被害を受けて困っていたのも、こんなにも凶悪なモンスターの討伐に苦戦していたのも、私たちだけではなかったと気づかされた。
「ここは、陽の専門職社の領地」
ライオンのような外見の精霊を引き連れ、霧の向こうから少女が現れた。
「もう逃がさない……」
雷の精霊は獣型モンスターとの鬼ごっこに苦戦してしまったけど、彼女が引き連れている陽精霊はいとも簡単にモンスターを捕らえた。放った光は数えきれないほどの鎖へと変化し、モンスターを地面へと押さえつける。
「ルーテ……あなたは……」
「遅くなってごめん……でも、ここからは私も……」
モンスターは咆哮を上げて、必死にもがこうとする。
もがけばもがこうとするほど、ルーテの契約精霊である陽精霊が放つ光は更に強く輝きを放つ。
「もう私の領域を、二度と侵させない」
巨体が動き出そうとした瞬間、確固たるルーテの声を陽精霊は聞き逃さなかった。
「retaltanjent」
陽精霊から放たれた光がモンスターの体を覆い、モンスターは真上から重力がかけられたかのように地面に伏した。
そして、陽精霊が放つ光はモンスターに直撃。
ルーテの巧みな指示で、陽精霊の攻撃は次々とモンスターに傷を残していく。
「強い……」
「強すぎます……」
ついにモンスターは抵抗することを諦め、光の縄に拘束された。
森が静寂を取り戻すと、ようやく霧が晴れて視界が開けていく。
「ルーテ、あの……」
「良かった……二人と……精霊が無事で……」
ルーテは大きく息を吐き出した。
私がルーテに心配をかけたせいで、もしかするとずっと呼吸が浅かったのかもしれない。
「ルーテ、あの、心配かけてごめんなさ……」
「また、守れないと思った……」
ルーテに駆け寄ることで、彼女の瞳に涙が浮かび上がっていることに気づいた。
私も激戦の中で生き残れた安堵感から、涙が込み上げてきそうになる。
「ごめん……カレット……ごめんね、弱くて……」
「ルーテ、謝らないでください」
私の腕の中にルーテを引き寄せて、ルーテの温もりや鼓動を感じ取る。
これが、生きている証拠だってことを全身が感じ取っていく。
「呑気に寝てる……」
私とルーテが互いの無事を確認し合っているところに、シスカさんは冷静にルーテの畑から作物を盗むきっかけとなった人物を拘束していく。




