第10話「明日の太陽を見たい」【シスカ視点】
「不要かどうかを決めるのは、シスカじゃない」
体が冷えてしまわないように、しっかりと布団をかけるピア。
そして、まるで物語に出てくる主人公のような決めポーズで私の方を振り向く。
「不要かどうかを決めるのは、カレットよ」
不要な再会だったら、カレットはさっさと忘れてしまう。
カレットは、そういう女の子。
ピアが出会ったばかりの私に、確かな言葉でカレットのことを教えてくれる。
「カレットが再会を喜んだら、一緒に喜んであげて」
「…………」
「カレットが忘れると言ったら、一緒に忘れてあげて」
ピアは歩行することもできるけれど、浮遊するっていう精霊らしい行動を見せながらカーテンの元へ向かった。
「だから、前世の記憶が戻るようなことがあったら話してあげて」
「戻らないとは思うけど」
「そんな悲観的にならないでよ」
「なんとなくだけど、戻らないと思う。きっと」
カレットの睡眠を妨害しないように、月の明かりが差し込む部屋のカーテンを閉めようとした。
けれど、彼女は手を止めて、部屋の中に月の光を残しておこう言った。
「それはそれでいいんじゃない? カレットもシスカも戦争のない世界で、新しい人生を歩むことができるってことなんだから」
自分には、知らない世界の戦争の夢を見るっていう事実しか存在しない。
そして、その戦争の光景が自分の前世の記憶なのかを判断することはできない。
そんな曖昧さをどうにかしないといけないのかなって漠然とした想いは、生命を照らす太陽の光が打ち消してくれた。
「戦争がないって……いいなって」
ピアが残してくれた隙間から、ピアと一緒に外の景色を眺めてみる。
カレットと同じく自分もさっさと寝た方がいいのは分かっていても、もう少し陽の光を浴びていたい。そんな風に思った
「ねえ、もしもカレットが、シスカと一緒に行きたいって言ったら……」
宿屋の出入り口には、客を歓迎するための花時計が用意されていた。
彩り豊かな花で埋め尽くされた花壇は時刻の進みと共に、花が閉じたり開いたりと自在に生きることができるようになっている。
これも、精霊と人間が力を合わせることで可能となった時計の仕組みだということを知る。
「一緒に連れて行って」
自分にも知らない世界がまだあるように、カレットにも知らない世界がきっとまだ多くある。
「カレットが望んだら、の話よ! 無理矢理はダメなんだから」
残りの人生すべてを懸けたところで、世界のすべてを知ることはできないかもしれない。
それでも、一つでも多くの世界を見に行きたい。
そんな前向きな気持ちが自分の中に生まれていることに気づいたとき、なんだか心がむず痒いような変な感覚に襲われた。
「カレットは、水の専門職社っていう世界しか知らない」
でも、そのむず痒さもいいなって。
「小鳥は、籠の中にいたらダメ」
「……カレットが小鳥だったっていうの、信じてないんじゃなかった?」
「その話を蒸し返すなよ!」
さっきから可笑しい。
いや、さっきからというよりは、カレットと出会ってからが可笑しいのかもしれない。
「小鳥は、空を飛ぶもの」
どんどん自分らしさがなくなっていくのを感じるけど、それがちっとも嫌なことじゃないと知っていく。
「カレットには、旅立ってほしいから」
「…………」
「広い世界を見に行くために、籠の中から飛び立ってほしいの」
花時計を形成する花々が、閉じたり開いたりを繰り返して時刻の進みを教えてくれる。
花時計を動かすために、光精霊は人へと手を貸す。
「もちろん、籠の中にいることを望んだら話は別よ?」
「守られて生きるのも、悪いことじゃない」
「ええ、それを理解しているシスカになら、カレットを託してもいいわ」
そろそろ、身体を休める時間かもしれない。
今日は、初めて戦争の夢を見なくて済むような気がする。
そんないい予感に包まれながら、私とピアは会話を終えた。




